表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン3
429/2364

第66章 非対称戦の準備




台北市西門町のカフェの窓越しに、通りを行く軍用トラックの列が見えた。

荷台には、緑色のコンテナに覆われた細長い筒——「天弓」地対空ミサイルの発射機だと、隣の席の大学生が小声で説明していた。

観光で台湾に来ていた日本人の杉浦は、その言葉を聞いて背筋に冷たいものを感じた。


店内のテレビには、国防部の記者会見が中継されている。

「市民の皆様、非常食の備蓄を最低一週間分確保してください。避難所の場所は、市役所ホームページをご確認ください」

淡々とした女性報道官の声の後ろで、スクリーンには避難訓練の映像が流れる。制服姿の高校生たちが、防空壕へ駆け込む様子だ。


外に出ると、街頭スピーカーからも同じ案内が繰り返されていた。

交差点では、迷彩服を着た中年の男たちがバスから降ろされ、分隊長らしき男に指示を受けている。

杉浦はそれが、招集された退役軍人や予備役兵士だとすぐに気付いた。彼らはヘルメットと小銃を受け取り、地図を手に地下道へ消えていく。




観光客で賑わっていた淡水の桟橋にも、微妙な緊張感が漂っていた。

河口の向こうに見える埠頭では、迷彩ネットで覆われた物資集積所から、木箱が次々とボートへ積み込まれている。

「Stinger……」と、カメラを構えた欧米人旅行者が呟いた。

その筒状のケースが携帯型地対空ミサイルだと知っている者は、地元の漁師以外ほとんどいなかった。


桟橋の売店で、老婆が観光客にパイナップルケーキを渡しながら言った。

「来週には、こんな景色は見られなくなるかもしれないよ」

その笑顔は、冗談なのか本気なのか、判断がつかなかった。


沖合の防波堤には、迷彩服の若者たちが数人、双眼鏡で西の海を睨んでいた。

その背後には、沈みかける夕陽と、どこかで響く非常用サイレンの低い音が混じり合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ