第58章 再び隠された巨影
場所:広島県呉市・第1基地基地
朝靄の残る呉港に、ゆっくりと灰色のアーチが組み上がっていく。 高さ50メートルを超えるドーム型カバーが、まるで巨大なカプセルのように「大和」の上部構造を覆い始めていた。
「本改修は、状況に左右されない保守・点検作業を目的としており
ます。また、作業中の安全確保と、艦の劣化防止を兼ねております」
その説明は整然としており、非の打ち所はなかった。 しかし現場を知る者には、それが本当の理由ではないことがわかっていた。
ドーム内部では、一応副砲の基部が解体され、レール用の台座が艤装班によって溶接されている。 艦尾側では高角砲の解放が伸び、白いカバーに包まれたレーザー砲モジュールがクレーンで吊り上げられていた 。
艦橋の上では旧型レーダーが遠慮され、最新型フェーズドアレーレーダーのアンテナが、静かにその座を受け継ぎ準備を進めていた 。
それにしても、この作業はすべて、巨大なドームの内側で進んでいた。 外部から見えるのは、ただ灰色の半球が港に鎮座するだけ。 港 の外れで、地元の漁師が仲間にぼそりと漏れる 。
港湾の警備は異常なまでに厳重だった。 海自の警備艇がドーム周辺の海域を定期巡回、桟橋への立ち入りは完全に制限された。 岸壁に近づこうとする者は、すぐに制服姿の警備員に制止される。
広報官の言葉とは裏腹に、この光景が国民に与える印象はひとつ——
「また政府は、何かを隠している」だった。
それでもそれは、その真の姿が現れる1ヶ月間のあいだだけ。
ドームの奥では、あるつや消し色塗料をまとった艦体パーツが、次々と組み上がっていった