第50章 時空転移事象(JSC-Ω)
場所:ロスアラモス国立研究所・地下コマンドセンター
ロスアラモスの地下コマンドセンター。壁面を埋め尽くす大型モニターには、日本の政治状況を示すニュース映像と、Fermilab、Caltech IQIM、そして国際宇宙ステーション(ISS)からのライブデータが映し出されている。部屋の中央に立つロバート・ホークス博士は、腕を組み、険しい表情でモニターを見つめていた。
メインスクリーンには、Caltech IQIMのリチャード・プレスコット博士と、Fermilabのエレナ・ロペス博士の顔が映し出されている。
「ホークス、日本の報道は見たか?官房長官の記者会見、そして世論の動向…」プレスコット博士の声が響く。「このままでは、大和のレーダー解析技術は共有されない。我々の時空位相モデルの精度が、根本から揺らぐことになる」
ホークス博士は、深い息を吐き出した。 「プレスコット、そのことは承知している。しかし、我々にできることはない。政治が科学の足を引っ張っているのだ」
その時、Fermilabのロペス博士が、興奮した口調で報告した。 「ホークス、政治どころではない。時空の共鳴現象が、再発生し始めている。
ISSの重力波観測アレイと、Fermilabの超伝導キュービット観測網が、時空連続体の歪みを検知した。正確な位置と場所は日本の大和改装の最新レーダ技術がなければ特定できないが、おおよそ1ヶ月~2ヶ月以内であることは間違いない。
これは、ロナルド・レーガンを帰還させる、最初で最後のチャンスだ」
ホークス博士の顔に、焦燥が走る。
「1ヶ月~2ヶ月内であれば、まだ日本の技術供与を交渉で期待できる。我々の量子色力学(QCD)シミュレーションだけでは、帰還シークエンスの精度を担保できない」
プレスコット博士が、ホログラフィック・モデルをスクリーンに映し出し、説明を始めた。 「その通りだ。大和のレーダー解析技術は、時空連続体における位相のブレを、リアルタイムで補正する唯一の手段だ。ロナルド・レーガンのような巨大な艦体を時空の窓に通すには、この技術がなければ、艦体は原子レベルで分解されるだろう」
ホークス博士は、拳を握りしめた。 「このままでは、ロナルド・レーガンを帰還させることも、**時空転移事象(JSC-Ω)**の全容を解明することもできなくなる。我々は、時間という宇宙の根源的な法則を掌握する、絶好の機会を失うことになる」
プレスコット博士は、静かに頷いた。 「我々は、最高の科学技術を持っている。しかし、それを操る政治が、未だに過去の亡霊に囚われている。この作戦は、科学の挑戦であると同時に、人類の未熟さを示す、残酷な実験なのかもしれない」
「ただ、時空転移事象(JSC-Ω)の全容を解明については、我々単独で進めることはできる。理論がなければ、いくら日本の技術供与があっても、OPERATION: GHOST CARRIER計画は実現できない」