第41章 「世論の渦、呉港に集う」
場所:呉港、旧海軍工廠前・報道特設ブース
呉港の旧海軍工廠ゲート前は、デモ隊の怒号と、それに負けじと集まった報道陣の喧騒で、未曾有の熱気に包まれていた。各局の中継車がずらりと並び、アンテナを空に向けている。報道特設ブースのセットには、メインの女性リポーターが、厳しい表情で原稿を読み込んでいる。
「本番まで、あと10秒!」
ディレクターの声が響き、リポーターは、冷静な声色を作り、カメラに向かって語り始めた。
現場からの生中継
「はい、こちら呉港、旧海軍工廠前です。早朝からの北朝鮮によるテロと、それに続く声明を受け、現在、こちらには数千人規模のデモ隊が押し寄せています。彼らの怒りの矛先は、テロを起こした北朝鮮だけでなく、この港に停泊する戦艦《大和》の再武装化を秘密裏に進めていた日本政府にも向けられています」
リポーターは、背後で揺れるデモ隊の旗とプラカードを、カメラに映すよう指示した。
「『大和を動かすな!』『戦争を呼ぶな!』といった怒声が、港全体に響き渡っています。このデモ隊は、間もなく警備ラインを突破し、ドックへ向かう勢いです。警察と機動隊が警戒にあたっていますが、衝突は避けられない状況です」
ドローン映像が捉えた真実
その時、画面が切り替わり、上空から撮影されたドローン映像が映し出された。そこには、巨大な《大和》の艦影が、ドックの中に横たわっている。通常の復元艦とは異なり、艦橋には複雑なレーダーアレイが、艦尾にはミサイルの発射口を思わせるVLS(垂直発射システム)区画が、はっきりと見て取れた。
「上空からのドローン映像をご覧ください。これが、これまで政府が『展示艦』と説明してきた、戦艦《大和》の現在の姿です。艦橋の多機能レーダー、そして艦尾のVLS区画。これは、明らかに現代の軍事艦艇の姿です」
リポーターの声は、画面に映し出された映像の説得力によって、さらに力を増していく。
「当初は『日本のロマン』として歓迎されたこの艦の再武装化が、北朝鮮テロという現実を前に、『国民を危険に晒す火種』と見なされ始めています」
世論の渦と、国民の選択
リポーターは、再びカメラに向き直り、結論を述べた。
「このテロは、日本のエネルギーインフラを破壊するだけでなく、国民の間に、『国防』と『平和』のどちらを優先すべきかという、究極の問いを突きつけました。デモ隊の怒号は、国民の不安と恐怖を代弁しているかのようです。今、この瞬間、日本の国民は、この国の未来を、静かに、しかし確実に、選択しようとしています」
その言葉と同時に、デモ隊が警備ラインを突破し、警官隊との間で小競り合いが始まった。中継画面は混乱に包まれ、怒号と悲鳴が入り乱れる中、リポーターは、必死に状況を伝え続けていた。