第39章 「時代の弾道、鋼鉄の迷宮」
場所:呉港・《大和》艦内、97式射撃管制室
森下一尉は、97式射撃管制室で、シミュレーションのメインコンソールを操作していた。彼の隣に立つ仁志兵曹長は、硬い表情で巨大なホログラムディスプレイを見つめている。ディスプレイには、太平洋の海が精緻な三次元モデルで再現され、その上空を、複数の超音速ステルス爆撃機が航行している様子が映し出されていた。
「シミュレーション開始。敵機、B-2ステルス爆撃機3機編隊。対艦ミサイル12発を搭載し、目標《大和》へ向かいます」
森下の声が、静寂に包まれた管制室に響き渡る。仁志は、ホログラムの爆撃機を睨みつけた。彼の知る時代には、空の脅威は急降下爆撃機や雷撃機だった。しかし、目の前の敵機は、肉眼では捉えられないステルス性能を持ち、水平線の彼方からミサイルを放つ。
「兵曹長、主砲の多機能レーダーを起動させ、敵機を捕捉してください」
仁志は、コンソールのパネルに指を滑らせた。彼の指先が触れるたびに、モニター上の数値が目まぐるしく変化していく。慣れないタッチパネルの操作に、最初は戸惑いを見せるが、彼の軍人としての経験と直感が、すぐにそれを克服していく。
「よし、多機能レーダー、起動!敵機を捕捉しました!」
仁志の声は、確信に満ちていた。彼の操作に合わせて、ホログラムの《大和》から、強力なレーダー波が放たれ、敵機を捉えていく。
「目標、敵機3機、方位340、355、010。射程圏内に入りました。対空弾、装填開始!」
仁志は、迷いなく指示を出す。彼の指示は、まるで70年前の艦隊戦で指揮を執るかのようだった。しかし、彼の指示に従って発射されるのは、**GPS誘導対空弾(VMG)**だ。
ズドン!ズドン!
シミュレーター室に、主砲の轟音が響き渡る。ホログラムの砲弾が、空の彼方へと吸い込まれていく。数秒後、仁志が捕捉した3機の爆撃機が、空中で光の粒となって爆散する映像が映し出された。
「…命中。成功だ、兵曹長」森下が、仁志に向かって言った。