第37章 「国難の夜明け、緊迫の官邸」
場所:官邸地下危機管理センター
夜が明けきらぬ官邸地下は、尋常ならざる緊張感に包まれていた。大型モニターには、原子力発電所の原子炉ステータスが危険領域を示す赤いグラフと、平壌の放送局が声明を読み上げる映像が同時に映し出されている。中央の円卓には、内閣総理大臣を筆頭に、国家安全保障会議(NSC)のメンバーが集まり、沈痛な面持ちで事態を凝視していた。
「原子力発電所は、外部電源喪失により、炉心冷却に失敗しています。非常用冷却装置を稼働させるため、自衛隊の特殊部隊が現地へ向かっていますが…」
防衛大臣の報告に、誰もが言葉を失う。
総理は、深く息を吸い込んだ。
「北朝鮮の声明、そして、その裏にある中国の思惑。これは、単なるテロではない。日本を揺さぶり、台湾問題への介入を阻止するための、明確な戦略的攻撃だ」
大和再武装化への批判と疑念
その時、NSC長官が、厳しい口調で口火を切った。
「総理、このような事態を招いたのは、我々の甘さだけではありません。一部からは、戦艦大和の再武装化が、北朝鮮を刺激し、このテロを誘発したのではないかという意見も上がっています。彼らの声明には、『日本の軍事的野心に警告を与える』という文言が明確に含まれていました」
その言葉に、会議室の空気が一変した。
「大和の存在は、すでに米国にも、そして中国にも知られていた。我々が秘密裏に進めてきた再武装化計画が、彼らにとって日本を叩く口実を与えてしまった…」
総理は、拳を握りしめた。
「…それは、結果論にすぎない。しかし、我々の行動が、このような事態の引き金になった可能性は否定できない。この責任は、内閣として重く受け止めなければならない」
対応策の議論と米国の動向
外務大臣が、口を開いた。
「国際社会は、今回のテロをどう捉えるか?米国は、北朝鮮への軍事報復を強く求めるだろう。しかし、その先に中国との全面衝突が待っている可能性も、否定できません」
「米国からの打診は?」
「まだありません。しかし、彼らは間違いなく、この事態を『台湾侵攻』という文脈で捉え、我々に明確な立場表明を求めてくるでしょう」
総理は、冷静に指示を出した。
「まずは、国民の安全確保が最優先だ。原子力発電所への対応を急がせ、全国の主要インフラの警備を強化せよ。そして、米国に対しては、この事態は北朝鮮の単独行動ではなく、中国・ロシアとの連携による戦略的攻撃であることを伝え、慎重な対応を促す」
時計は、朝の6時を指していた。夜明けの空が、日本の未来に、不穏な影を落とし始めていた。