第36章 「電波に乗る宣戦布告」
場所:日本の某テレビ局・報道特別スタジオ
夜が明け始めたテレビ局のスタジオは、張り詰めた空気のままだった。未曾有のテロ事件は、一夜にして日本の社会を震撼させ、政府はテロ対策本部を設置。全国の主要施設は厳戒態勢に入っていた。キャスターは、最新情報を待つ間、疲労困憊の表情で原稿に目を通していた。
その時、スタジオに緊急の速報が飛び込んできた。
「速報です!北朝鮮の国営放送『朝鮮中央放送』が、特別声明を放送中です!音声と映像を、スタジオに回します!」
ディレクターの叫び声と同時に、壁面の大画面が、平壌の放送局の映像に切り替わった。画面に映し出されたのは、人民服に身を包んだ、冷静で威圧的な表情の男性アナウンサーだった。
犯行声明:国家の意思
アナウンサーは、毅然とした態度で、ゆっくりと声明を読み始めた。
「日本の同胞、そして世界の人々よ。我々は、昨夜、日本国内の複数箇所で発生した、一部の施設の機能停止事態について、真の目的を明らかにする」
スタジオの全員が、息をのんだ。彼らが待ち望んでいた、そして最も恐れていた犯人の声明だった。
「これは、我々大朝鮮民国が、日本の軍事的野心に警告を与えるために実行した、正義の行動である。我々は、日本の原子力発電所に電力を供給する二つの主要な生命線を、精密かつ確実に切断した」
アナウンサーの声は、感情を一切含まない、淡々としたものだった。しかし、その言葉が持つ意味は、あまりにも重かった。
「このテロは、単なる破壊活動ではない。これは、日本がアジアの平和を乱すことを阻止するための、我々の意志の表明だ」
そして、アナウンサーは、カメラをまっすぐ見据え、最も重要なメッセージを伝えた。
「台湾問題は、我が友好国である中華人民共和国の、神聖なる国内問題である。もし、日本がこの問題に干渉するようなことがあれば…もし、日本が我々大朝鮮民国、そして友好国に対する敵対的行動を取るようなことがあれば、次の行動は、今回とは比較にならないものとなるだろう」
声明は、簡潔だった。しかし、その裏に隠された脅威は、想像を絶するものだった。
スタジオの混乱と分析
声明放送後、スタジオは深い沈黙に包まれた。キャスターは、震える手でマイクを握り、言葉を失っていた。
「今、放送されたのは…これは、北朝鮮による、日本への明確な宣戦布告です…」
コメンテーターの元外交官が、青ざめた顔で語り始めた。
「彼らの真の目的は、日本のエネルギーインフラを破壊することだけではありません。彼らは、日本の国民に直接的な恐怖を与え、台湾問題への関与を断念させようとしている。中国との連携を示唆し、心理的な揺さぶりをかけているのです」
画面には、声明を伝えるニュース速報が、全国各地で流れている様子が映し出される。SNSでは、北朝鮮の声明に対する恐怖と怒り、そして「台湾問題に関わるべきではない」という意見が、激しく飛び交っていた。




