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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン25

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第43章 第1章:星空の沈黙(ル・シランス・デ・ゼトワール)


1. 閉ざされたプラネタリウム

パリ16区、パレ・ド・ラ・デクヴェルト(発見の殿堂)。深夜のプラネタリウムのドーム内で、一人の男が息絶えていた。

被害者は、ドイツのザクセン=アンハルト州立博物館から招聘された高名な考古天文学者、クラウス・ホフマン教授。

彼の遺体の周囲には、奇妙な演出が施されていた。ドームの投影機は、紀元前1600年の中央ヨーロッパの夜空を映し出し、教授の手元には、一点の青銅器が置かれていた。

それは、深い緑青の青銅に黄金の太陽と月、そして星々が散りばめられた、世界最古の天文盤**「ネブラ・スカイ・ディスク」**……の、精巧すぎる「未発表のレプリカ」だった。


挿絵(By みてみん)

2. 資料局の幾何学

翌朝。犯罪資料局の地下。アストリッド・ニールセンは、事件現場から送られてきた写真データを、瞬きもせずに見つめていた。彼女の脳内では、32個の黄金の点(星)の配置が、即座に三次元の座標へと変換されていく。

「……アストリッド、大丈夫? またその『怖いほど真面目な顔』になってるわよ」

ラファエル・コスト警部が、資料室の重いドアを開けて入ってきた。

「警視。……この天文盤は、既存のネブラ・スカイ・ディスクとは異なります。プレアデス星団を示す7つの星の配置が、わずか 0.8 度だけズレています。これはミスではありません。意図的な『補正』です」

アストリッドは、震える指先でモニターの星を指し示した。

「ネブラ・スカイ・ディスクは、当初その美しさから偽物だと疑われました。しかし、**鉛同位体分析(Lead Isotope Analysis)**によって、銅がオーストリアのミッターベルク産であることが証明され、本物と確定した歴史があります。……ですが、この現場にあった『第2のディスク』には、現代の不純物が一切含まれていません。これは、3600年前の技術で作られた『現代の偽物』……あるいは、歴史が隠蔽してきた『もう一つの真実』です」


> 【専門用語解説:考古冶金学(Archaeometallurgy)】

> 出土した金属遺物の成分や製造技法を分析し、当時の交易ルートや技術水準を解明する学問。ネブラ・スカイ・ディスクの場合、銅に含まれる微量元素や同位体の比率を調べることで、原材料の産地が特定され、真贋論争に終止符が打たれた。

>


3. うるう月の暗号

現場に急行したアストリッドは、ホフマン教授の遺体の姿勢に違和感を覚える。教授は、ディスクの縁にある「黄金の弧」の一端を指差していた。

「警視。この82度の角度を持つ弧は、夏至と冬至の太陽の没する位置の差を示しています。ですが、教授が指しているのはその隙間……『存在しない日』です」

アストリッドは、ドームの投影機を操作し、ディスクに描かれた「三日月とプレアデス星団」の関係を再現した。

「これは**『バビロニアの閏月規則』**の先駆けです。三日月のすぐ横にプレアデス星団が見えるとき、その年は33日間の閏月を挿入しなければならない。古代の人々は、このディスクを使って太陰暦と太陽暦のズレを調整していました。犯人は、この『時間の調整』という概念を利用して、教授を殺害したのです」

「時間の調整? どういうこと、アストリッド。まさか、犯人は3600年前にタイムスリップしたとでも言うの?」

「いいえ。……犯人は、現代の暦から『抹消された33日間』を狙っています。……警視、ホフマン教授の予定表を確認してください。彼は、ある『未登録の天体現象』を観測するためにパリに来ていました」



4. 黄金の偽装

アストリッドは、押収された「第2のディスク」を分析室の顕微鏡下に置いた。彼女が注目したのは、黄金の星の表面にある**微細なマイクロ・スクラッチ**だった。

「見てください。この傷のパターンは、古代の石器による研磨ではありません。……**超音波カッター(Ultrasonic Cutter)**の痕跡です。犯人は、古代の青銅と黄金を再利用し、このディスクを『今』作り上げました。……目的は、ホフマン教授に、これが『本物の第2の発見』だと思い込ませること」

アストリッドの脳内で、ディスクの星々が動き出し、一つのパターンを形成する。それは地図でも、数式でもなく、ある「特定の場所」の視界を象徴していた。

「……警視。このディスクを水平に保ち、パリのサン・シュルピス教会の**ローズ・ライン(子午線)**に重ねてください。星の配置が、教会の床に投影される光の点と一致するはずです」


> 【専門用語解説:ローズ・ライン(Rose Line)】

> パリの子午線を指す俗称。サン・シュルピス教会の床には、冬至や夏至の太陽光を捉えるための真鍮のラインが埋め込まれており、天文観測器グノモンとして機能している。

>


5. 静かなる浸食

その時、資料局の電源が突如として遮断された。完全な暗闇の中、アストリッドはパニックに陥りそうになるが、彼女の手元にあるレプリカのディスクが、微かな燐光を放っていることに気づく。

「……警視。……伏せてください。……このディスクの黄金には、ラジウム(Radium)が塗布されています。……これは天文盤ではなく、……高線量の放射性トラップです」

暗闇から、ガスマスクを装着した人影が近づいてくる。ラファエルが銃を抜くが、犯人はアストリッドが抱えている「ディスク」そのものを狙って、特殊な電磁警棒を振り下ろした。

「――っ!」

アストリッドは、暗闇の中でディスクの「幾何学的な重心」を瞬時に計算し、それを盾として掲げた。衝撃音が響き、火花が散る。

その瞬間、アストリッドの耳に、3600年前の「星の歌」――ディスクの振動が奏でる特定の周波数が、警告のように響き渡った。

【第2章:ミッターベルクの亡霊】へ続く。



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