第29章 大和、公然たる秘密
呉港、旧海軍工廠
世論が沸騰する中、政府は「戦艦大和の復元は、新たな防災プラットフォームとしての活用を検討するためのもの」という苦しい説明に終始していた。しかし、雑誌のスクープと民間衛星の解析データは、その欺瞞を完全に暴いていた。
広島県呉市の旧海軍工廠に停泊する大和の周囲は、厳重な警備こそ維持されているものの、以前のような徹底した機密主義は影を潜めていた。これは政府が「隠しきれないものは、公然の秘密として扱う」という新たな戦略に転換したことを意味していた。
夜間には、以前にも増して活発な活動が見られるようになる。溶接の火花や重機が稼働する音は、もはや隠すことなく響き渡り、ドックの照明は煌々と輝いていた。これは、国民の関心が薄れるのを待ちながら、残りの改修作業を加速させるための、政府の苦渋の決断だった。
呉港・特設シミュレータールーム
大和の再武装が公になったことで、政府は次のフェーズへ移行することを決断する。それは、大和に装備された最新機器の運用訓練の開始だ。
訓練の目的は、大和の持つ圧倒的な火力を最大限に引き出すこと。しかし、現代の戦艦の運用に精通した海自の士官だけでは、歴史的な巨大艦の特性を理解することは難しい。
そこで、海自の若手士官と、帝国海軍時代の艦船運用に精通した専門家をペアとして訓練にあたらせる、特別なプログラムが組まれた。
呉港の特設シミュレータールームでは、モニターに大和の主砲が映し出され、海自と旧海軍の専門家が熱心に議論を交わしている。彼らは、過去の戦術思想と未来のテクノロジーを融合させ、大和という新たな兵器の運用方法を模索していた。
新たな指導者たち
令和9年12月上旬|呉港・艦内訓練施設
シミュレーターでの基礎訓練を終えたペアの中から、選抜されたエリートたちが大和の艦内へと足を踏み入れた。
彼らは、大和の主砲が放つGPS誘導弾や、対空誘導弾の特性を学び、同時に、帝国海軍が培ってきた戦術的思考を、現代の戦闘にどう応用するかを議論する。過去の経験と未来の知識が、大和の持つ圧倒的な力を引き出す鍵だった。




