第27章 ISS「きぼう」モジュール内
国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」モジュールは、静かな稼働音に包まれていた。窓の外には、青く輝く地球が広がり、雲の帯がゆっくりと流れていく。
JAXA宇宙飛行士の川口雄一は、地球を眺めながら、手元のタブレットで日本のニュースをチェックしていた。そこには、連日報じられる「戦艦大和、復活」という見出しが並んでいた。
「ユウイチ、また日本のニュースか?随分と騒がしいようだな」
隣で作業をしていたNASA宇宙飛行士のクリス・ハリスが、からかうように言った。
「ええ、クリス。何て言うか…地上では、とんでもないことが起きているみたいだ。歴史の教科書に出てくるような艦が、今、再び動き出したらしい」
クリスは興味深そうに、川口のタブレットを覗き込んだ。
「ワオ…まるでSFじゃないか。しかし、それだけじゃない。この数週間、ロスアラモスから、特殊な観測ミッションの要請が頻繁に来るようになった」
クリスは、自分のタブレットに表示された、ISSの観測スケジュールを開いた。そこには、通常の気象観測や天体観測とは異なる、奇妙なミッションが記載されていた。
「これを見ろ。『時空連続体における重力揺らぎ観測:沖縄沖、東シナ海座標、重点観測』…こんなコード、見たことがない。しかも、なぜか日本の自衛隊と、米海軍の艦船の航跡データとクロスリファレンスするように指示されている。まるで、何かを探しているようだ」
川口は、クリスの言葉に眉をひそめた。その座標は、そうりゅうとロナルド・レーガン、そして大和とまやがタイムスリップした場所と、完全に一致していた。地上の研究者たちが、その現象を「時空特異点事象(JSC-Ω)」と呼んでいることを、彼はニュースで知っていた。
その時、クリスのタブレットから、アラート音が鳴り響いた。
「ユウイチ!来たぞ!ロスアラモスから緊急通信だ!」
クリスがメインスクリーンを切り替えると、ロスアラモスのロゴの下に、三つの研究拠点のロゴが表示された。まさに、地上で始まったばかりの「TRIDENT NETWORK」プロジェクトだった。
通信画面に映し出されたホークス博士は、普段の冷静さを欠いた、興奮した表情で指示を出した。
「超高感度重力波観測アレイを、指定された座標に向けろ!時空の揺らぎが、まだ微少だが再び、収束し始めている。位相が前回の現象と一致する。これは…再転移現象の兆候だ!長期観測態勢に入ってくれ」
川口とクリスは、顔を見合わせた。
「再転移…?いったい、何が戻ってこようとしているんだ…?」クリスは、驚きと困惑を隠せない様子だった。