第14章 1945年7月 ロナルドレーガン沖縄沖で固縛(回想シーン)
「…もし、それが核弾頭であれば…たとえ命中しなくとも、目標の中心から2キロメートル圏内の艦艇は、壊滅的な被害を受けます。ロナルド・レーガンだけでなく、周囲の護衛艦隊も、全てが消し飛ぶでしょう…」
ロナルド・レーガンから原子炉停止の報を受け取ったそうりゅうは、静かに深度を上げ、浮上を開始した。艦橋に立つそうりゅう艦長の表情は、冷徹な決断を下した後の深い疲労と、しかし同時に、歴史の歯車を動かした確かな手応えに満ちていた。
彼の脳裏には、先ほどまでのウェルズ艦長との「チキンレース」が鮮明に蘇っていた。そうりゅうのAIP(非大気依存推進)システムは、この長時間の隠密行動と急速な潜航・浮上、そして通信によって、まさに稼働限界ギリギリの状態だったのだ。
燃料電池の残量は心許なく、もしウェルズ艦長があと数分でも時間稼ぎを続けていたら、そうりゅうは危険な状況に陥っていたかもしれない。そのギリギリの瀬戸際で彼は勝利を掴んだのだ。 沖縄の夜空は、未だ遠くで爆炎がくすぶるものの、先ほどまでの激しい戦闘の音は嘘のように消え去っていた。
浮上したそうりゅうは、ゆっくりと沖縄本島に接近していく。水平線の向こう、夜明け前の薄明かりが、沖縄の海岸線をぼんやりと浮かび上がらせていた。しかし、その海岸線は、艦橋の窓から見える光景に、乗員たちは息をのんだ。
「…これが、沖縄、か」副長が呻くように呟いた。その声には、驚愕と絶望が入り混じっていた。 海岸線は、まさしく地獄絵図だった。かつては白く美しい砂浜だった場所は、無数の砲弾孔と爆撃跡によって無残に抉り取られ、黒い焦土と化していた。波打ち際には、米軍のLVT(上陸用車両、履帯付き)が無残な姿を晒し、いくつものM4シャーマン戦車が砲塔をへし折られて転がっている。艦砲射撃の直撃を受け、原型をとどめないほどに潰れた車両の残骸からは、今なお生臭い鉄と血の匂いが漂うかのようだった。
「…ひどい…」ソナー員の一人が、思わず声を漏らした。その声は、震えと悲痛に満ちていた。
その時、遠くに、巨大な影がゆっくりと動いているのが見えた。二隻の曳船に曳航され、沖縄のビーチへと向かっている。それは、推進器を破壊され、原子炉を停止した原子力空母ロナルド・レーガンだった。艦体は僅かに傾き、その巨大さが、まるで座礁した鯨のように、見る者に敗北を印象付けていた。ウェルズ艦長がそうりゅうの要求を受け入れ、艦を無力化した動かぬ証拠だった。
彼は、そうりゅう艦長の指示に従い ロナルド・レーガンをビーチから見える場所に座礁させることで、沖縄への攻撃を完全に停止を示した ロナルドレーガンはその後、ビーチで核魚雷の弾頭を固縛され、日本軍によって遠隔起爆できる状況にされて、ビーチから全く動けなくなる。乗員はすべて退艦させられた。