第10章 無音の雷鳴 (Day-90)
場所:防衛省・情報通信本部、市ヶ谷/経産省・サイバーセキュリティ課
防衛省・情報通信本部のセキュリティオペレーションセンター(SOC)には、青く光る複数のモニターに囲まれた数十人の隊員が常駐していた。NIDS(Network Intrusion Detection System)のアラートが、まず1台の画面に「未知のプロトコルスパイク」と表示されたのは、03:04:11。10秒後には、国内全土防衛拠点から同じアラートが報告された。
「基地間暗号通信がループしています。再送信要求が急増しています……」
「ファーム更新?違う……これはゼロデイだ」
次の瞬間、監視システムのクラッシュレポートが連鎖的に出力され始めた。
JSDF 内で使用される非公開仕様の通信フォーマットに擬態したマルウェアが、自己増殖型の AI コードにより確実と暗号化チャンネルへ臨む。
「一時遮断、対外通信すべてカット!」
「できません、内部システムが自己検証モードで行ってます。コード表記ごとに上書きされています!」
議員たちは声を荒げる中、冷静に画面を見ていた1佐が、静かに呟いていた。
「これは『実験』だ……。できることは全部やって、結果を見ている」
03:07 JST — 経産省サイバーセキュリティ課
経産勝利舎が眠っている霞が関第3ビルの4階で、警告何度も鳴った。
「電力事業者とのVPN接続に、強制プロトコル切替。TLSバージョンが偽装されている」
「北海道電力・関電・メモリ、三者同時に不可解なパケットフラグ。何だこれ……このTCPヘッダ、標準じゃない」
経産省直下のサイバー対策メンバーたちは、冷や汗をかきながら各地のインフラ制御との接続ログを確認していた。
その攻撃はわずか数分間、03:04〜03:08の4分間だけで終了した。
「戻った……?いや、ログが……途中で消えてる?」
「…書き換えじゃない、“巻き戻し”されています」
ログが改竄された痕跡その後、元の状態に戻っている。唯一残されたのは、実在しないIPアドレス「9.9.9.0/24」からの全方位スキャンのみ。