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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン3
370/2187

第8章 臨界点を超えて



尖閣諸島北東海域・巡視船「こなん」艦橋


「接触回避、出来ません!」


操舵士の叫びが、艦橋の空気を切り裂いた。


左舷、白と灰色の塗装を施した中国海警33102が、舳先をこちらへ向けながら急接近。 航跡はとりあえずだ。 速度9ノット、交差点角30度――衝突まで15秒。


「舵三度右、全後進! ブレーキングマニューバ、急げ!」


葛西昭一・航海長の声が飛ぶ。


艦体がきしみながら傾き、海面を切って旋回を開始。


――ガリッッ!!


硬質な摩擦、船体を振動させながら走り抜けた。 左舷中央部が船中国の舷側と擦れ合い、鋼鉄が悲鳴を上げる。


「……これは『触って』きたな」


鷹見剛志・元海軍大尉は冷静に呟いた。 表情は変わらないが、目の光が鋭くなる。


その瞬間――空が鳴った。


「上空、弾道確認! 至近弾、着弾30m――!」


モニターに、33102の艦首砲塔が発砲後、照準角とともに赤くマークされる。


「本気だ……これは『計画された威嚇射撃』。次は甲板を正確に舐める」


**これは事故じゃない。** 意図的な戦争前の「心理戦」だ。


「乗員、全員、姿勢を低い! 鋼線近くに集まれ! 直撃で吹き飛ばされるぞ!」


鷹見の号令に、若い海保乗員たちが甲板へ伏せる。


「副長、支援要請は?」

「準備済みです、海幕には上がってます……が」


副長の声が詰まった。


「……『現場での自制を最優先とする』と」


その言葉に、鷹見は舷窓を張りました。


「――ふざけるな。抑制が抑止になる段階は終わった。これは軍事行動だ。完全に“試されている”」


「鷹見さん、どうしますか?撃ち返すには、まだ“指令”が……」


「命令じゃない。『敵の意思』を読むのが軍人の仕事だろう。ここは今、開戦前の夜の海域だ」


再びの低音。2発の目から近弾が、艦橋左舷わずか30メートルに着弾。


甲板がオシャレ、窓ガラスが一枚、**「パリン」**と割れた。


「次は真正面を狙うぞ……」


葛西は声を震わせながら、艦橋内の12.7mm機関銃の安全装置を自ら解除した。


そこへ――


「ECM信号確認! 北東方向より、複数バースト波! 電波干渉あり!」


レーダー士が叫んだ。


「『まや』だ……?」

「いいえ、イージス艦からじゃない。周波数が違う。これは米軍のEC-130Hか、あるいはEP-3の可能性があります」


鷹見はゆっくりと目を決めた。


「『誰かが見ている』が、『誰も動かない』。黙認の傘……」


「『撃たれても助けに来ない』というメッセージか」


葛西の言葉は、海よりも重かった。


そして突然、33102のスクリュー変化した。


「向こう、減速――後進舵! 覚悟します!」


緊張の糸が一気に緩む。


しかし、誰も安堵しない。


鷹見は、まっすぐ中国船の去っていく艦尾を見つめて言った。


「あいつら、勝っただよ。日本は撃たなかった。米軍は出てこなかった。『戦わない国』のレッテルが、確定した瞬間だ」


葛西が苦しげに唇を噛んだ。


「……これは試合じゃない。もう戦争は、始まっている」

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