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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン3
369/2267

第7章 接近


東シナ海・尖閣諸島北東約18海里海域/巡視船「こなん」艦橋


巡洋艦「こなん」の艦橋では、室温をしばらく緊張感があり、無線と電子音声の合間に張り詰めていた。


「第1管制、レーダー映像確認。南南西方向、マスト高35メートル級が3隻。海上警務型」


声を張るレーダー士の横で、鷹見剛志が無言で乗り出した。 双眼鏡を覗くくまでもない。 視界の隅に、中国海警局の大型船が白い船体に黒塗りの「CHINA COAST GUARD」の文字をしっかり、直進してくるのが確認できた。


「まっすぐ来てます。威圧行動の典型ですね……」


と葛西が言った。

しかし、鷹見は鼻を鳴らした。


「いや、これは『距離感をなくす戦闘法』だ。こちらが怯めば、向こうの『勝ち』だ」


その時、艦橋に警報が鳴りました。


「中国側レーダー照射、明確なビームロックです。艦番号33210から」


「馬鹿が……」と鷹見が呟いていた。


「警告放送出しますか?」

海保士官が質問する。


「放送は海自だ。俺がやると戦争になる」

鷹見はぴしゃりと切った。


「葛西、お前が対応しろ。俺が言えば、向こうは撃ってくる。日本の旗を背負うのはお前のほうだろ」


その言葉に、葛西昭一は一瞬口をつぐんだ


「こちらは日本海上保安庁所属巡視船。現在、国際法に基づく正当な警戒行動を実施中。これ以上の接近は危険行為と見なす」



答えの代わりに、無回答のまま、中国海警船が速度を5ノットから9ノットへ上げた。


「こいつら、こするぞ……」

若い機関士が呟いた。


「衝突警戒、距離500」

「船体左舷へスライド接近中」

「音響センサーする―、走行音あり、潜水ドローン確認されず―」

艦橋の報告が、順次連続。


そのとき、もう一隻の中国船が、斜め後方から別角度で接近してきていることが確認された。 艦番号33102。


「包囲形が残ってる」

葛西が呟くと、鷹見が押しつぶすように言った。


「包囲じゃない、“前後封鎖”だ。ここは、演習空域じゃない、実戦想定海域だ」


その直後、1秒の空白を置いて、中国語警告による放送が始まった。


「中国海警局所属33102船である。我が方の主権海域における不法侵入、退去せよ。さもなくば必要な措置にはいる」


「必要な措置」――それは、「発砲」の婉曲表現であることは、全員が理解していた。


艦橋が沈黙する中、レーダー上にもう一つの向こうが現れる。


「上空に航空反応。機種識別……Y-9、電子偵察機です。高度7500mで周回開始」

「今度、向こうはこの作戦を“記録”しにきたってことか……」


葛西の声に、鷹見が短いうなずいた。


「撃つ気はある。そして撃たせたいのは、こっちだ。――日本側から開戦させる、これが中国の手口だ」


巡洋艦「こなん」は、その瞬間、政治と軍事の「最前線」にあった。

だが、防衛大臣も、内閣も、沖米軍も――今は誰も、この場にはいない。


「ここが現実だ。だが誰も、それを認めない。これが今の戦争だよ、葛西」




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