第124章 事実の重み
防衛省地下B-7会議室。
厚い鋼製扉が閉まる音が、低く長く反響した。
室内は半円形のテーブルを囲む十数名の政府・自衛隊幹部で満席になっている。
壁際の大型スクリーンには「沖縄沖回収遺体・最終鑑定結果」と印字された赤ラベルのファイルが表示され、その下には順天堂大学法医学部と防衛大学校医学部のロゴが並んでいた。
海幕情報部長は、手元の端末に目を落としたまま、ゆっくりと口を開いた。
「——結論から申し上げます。
本件遺体は、現代米海軍、空母ロナルド・レーガン所属F/A-18Fスーパーホーネット艦載機パイロットであった可能性が、極めて高い」
ざわめきは起きなかった。
代わりに、会議室全体の呼吸が一瞬止まったような静寂が広がる。
全員が理解していた——これは単なる身元特定ではない。
昭和二十年の戦場に現代米軍パイロットが存在していた、という証明。
それは、大和、海自艦、そしてロナルド・レーガンが同一の時間軸で物理的に接触していた事実を裏付けるものだった。
情報部長はスクリーンを切り替える。
そこには、DNA配列の一致を示す二本の波形グラフと、米国防総省提供の顔写真が並んでいた。
「遺体から採取したDNAは、米軍人事データベース内の特定個人と99.98%一致。
現役で第七艦隊ロナルド・レーガン所属、航空団第102戦闘飛行隊に配属されている人物です」
統幕運用課長が低く問う。
「……つまり、この件を米軍に公式通報すれば、タイムスリップ事案を日米双方で認めることになる」
外務省北米局長は、眼鏡の奥で視線を鋭くした。
「米側はこれまで“大和タイムスリップ説”を全く信じていない。常識的に考えれば、実物大モックアップの建造としか判断できない。
だが、この結果を示せば……彼らも否定できない」
官房副長官補は、短く息を吐き、椅子の背に深くもたれた。
「この遺体が証拠になる。ただし、それは同時に——我々が踏み越えてはならない一線かもしれん」
会議室には再び静寂が訪れた。
スクリーンの中央で、DNA一致の緑色のラインが、微動だにせず光を放っていた。