第122章 記憶の断片
米海軍横須賀基地、士官宿舎。
窓の外には係留中の空母「ロナルド・レーガン」の艦橋が、夜間照明に照らされて浮かび上がっている。
艦載機パイロット、ジョナサン・カーター少佐は、机の上のカップに手を伸ばし、冷めきったコーヒーを口にした。
ここ数か月、眠りは浅く、夢は必ず同じ光景で終わる。
——空は鉛色、海面には白波。
旧米海軍の甲板に立ち、整列する隊員たちの間をすり抜け、彼はコクピットに駆け込む。
機体は第二次世界大戦末期の艦載戦闘機「F6Fヘルキャット」型。
無線機からは甲高い声が飛び、短い命令が耳を打つ。
その先には、巨大なシルエット——大和型戦艦。
砲門から閃光が走り、海面に高く白い水柱が立ち上がる。
ジョナサンは操縦桿を握り、急降下。
照準器の円が艦影を捉え、親指が爆弾投下スイッチを押し込む。
機体が被弾し、コクピット内に警告灯が赤く点滅する。
機体は制御を失い、傾きながら海面へ——
視界が回転し、波間が迫り、最後に見えたのは、鋼鉄の巨艦の艦首だった。
ベッドの端で、ジョナサンは両手で顔を覆った。
現実の任務で沖縄を飛んだことはない。
だが、これらの光景は夢ではなく、記録映像でもない。
手の感触、Gのかかり方、海の匂い——あまりに生々しすぎる。
彼は誰にも話せなかった。
精神科医に行けば「戦闘ストレス」か「PTSD」と診断されるだろう。
だが、自分はそんな戦闘を経験していないはずだ。