第188章 第8章:ミステリー —— 暇つぶしサークルにて
場所: 大学のサークル棟、「暇つぶしサークル」部室。
野本:(壊れた扇風機の羽根を手で回しながら)
「……深度三四五メートル。反転した大和の船底には、四本の推進軸が、死んだ昆虫の足のように突き出しています」
小宮部長:(シュルレアリスムの画集を眺めながら)
「死んだ昆虫の足……。ダリ的ね。硬質で、かつ哀愁を帯びたフォルム。悪くないわ」
野本:
「部長、ここからがミステリーです。左舷の二本、右舷の内側一本は確認できました。しかし、右舷の外側、第四スクリューだけが『消失』していたのです」
橋本副部長:(携帯ゲーム機をピコピコしながら)
「なんだよそれ。初期不良か? パーツ足りないまま出荷しちゃった系?」
野本:
「いいえ、副部長。プラモデルではありません。……根元から『毟り取られて』いたのです。想像してください。カニの足を食べようとして、関節じゃないところで無理やりへし折ってしまった時の、あの残酷な断面を」
橋本副部長:
「カニ食べる時、そんな乱暴なことしねーよ。ハサミ使えよ」
野本:
「金属疲労や着底の衝撃ではありません。……断面はねじ切れ、外板は内側に凹んでいました。これは『爆発的な切断』です」
小宮部長:
「不在の証明……。そこに『ない』ということが、何か凄まじいことが起きたという『ある』を証明しているのね。禅問答みたいで好きよ」
野本:
「はい。そこには、記録に残っていない『幻の魚雷』が命中した可能性が高いのです」
場所: 大学の学食。
野本:
「……高速回転するスクリューに、爆発物が直撃する。山田さん、これがいかに恐ろしいことか分かりますか?」
山田:
「うーん、回転してるタイヤにバズーカ撃ち込むようなもんか? 派手にぶっ飛びそうだな」
野本:
「その通りです。回転エネルギー(トルク)と衝撃波が干渉し合い、シャフトは暴れ回りながら船体から引きちぎられました」
重子:
「痛そう……。ていうか、大和さん可哀想。四本足のうち一本なくなったら、歩けないじゃん」
野本:
「重子さん、船なので歩きませんが、泳ぎのバランスは崩壊します。……これを『第四スクリュー欠損ミステリー』と呼びます」
山田:
「なんか推理小説のタイトルみたいだな」
野本:
「公式記録にはない被弾です。……例えるなら、飲み会の割り勘で、誰も注文していないはずの特上カルビがレシートに含まれていて、全員が疑心暗鬼になるような『見えない一撃』です」
山田:
「その例え、スケールが小さすぎて逆に分かりづらいわ! もっと国家レベルの話だろ」
野本:
「……右舷のスクリューを失い、推進力のバランスが崩れた巨艦は、悲鳴を上げながら旋回し、横転していったのです」
重子:
「野本さんの話、たまにリアルすぎてご飯が喉を通らなくなるんだよね……」
場所: ファミレス「ジョリーズ」。
亀山:
(電動ミキサーを分解しながら不機嫌そうに)
「もう、なんなのよこれ! また刃が回んないじゃない。軸がイカれてるわよ、絶対」
野本:
「亀山さん。そのミキサーの症状は、大和の第四スクリュー脱落事故に通じるものがあります」
亀山:
「はあ? 戦艦とミキサー一緒にしないでよ。こっちはランチのスープ仕込みで忙しいのよ」
野本:
「軸への過度な負荷と、外部からの衝撃。……亀山さん、さっき氷を砕く時に、スプーン入れたままスイッチ押しませんでしたか?」
亀山:
「……ギクッ。や、やってないわよ。ちょっとカチンって言っただけよ」
野本:
「それが『幻の魚雷』です。……回転中の異物混入は、シャフトを剪断破壊します。大和のスクリューもそうやって毟り取られたのです」
富山:
「野本さん、亀山さんを追い詰めないであげて。あと亀山さん、それ弁償もんだよ」
野本:
「右舷外軸の喪失は、船体のバランスを崩壊させました。……同様に、ジョリーズのキッチンも、このミキサーの故障によってランチタイムのオペレーションが崩壊の危機に瀕しています」
富山:
「うわ、シャレにならないまとめ方やめて」
野本:
「……消えたスクリューの謎は解けましたが、亀山さんが隠そうとしたスプーンの行方は謎のままです」
亀山:
「わかった、わかったわよ! 店長に謝ってくるわよ!」
野本:
「野本と申します。……代わりのミキサーを持ってまいります。全速前進で」




