第119章 遺体安置室の報告(D-116)
防衛省地下B-7会議室。
分厚い防音扉が閉じられ、外界の音は完全に遮断されていた。
楕円形のテーブルの上には、いつもの定例報告書の束が置かれているが、そのうち一枚だけ、赤い「機密」印が押されている。
海幕人事教育部・医務官がその一枚を取り上げ、淡々と読み上げ始めた。
医務官
「大和艦内遺体安置室で保管していた遺体のうち、1体について異常が判明しました。
防衛大学校医学部の法医学チームによる一次鑑定の結果——明らかに日本人ではない、白人系の成人男性です」
その瞬間、室内に微かな緊張が走る。
資料のページをめくる音すら途切れた。
医務官
「推定年齢は30代前半。身長は182センチ、体重は生前で約84キロと推測。
筋肉量が多く、体脂肪率は低いことから、定期的な高負荷トレーニングを行っていたと考えられます。
死因は胸部への鈍的外傷と、複数の裂傷による失血。損傷の程度は激しく、顔面の形状識別は不可能です」
テーブル端のスクリーンが切り替わり、遺体の着衣の部分拡大写真が表示される。
オリーブグリーンとグレーのパネルが組み合わされた耐火素材のフライトスーツ——両肩には現代型のベルクロ式パッチベースが縫い付けられていたが、部隊章や階級章は剥がされている。
医務官
「最大の特異点は着衣です。
第二次世界大戦期の米海軍飛行服ではなく、現行のアメリカ海軍航空部隊仕様のCWU-27/P耐火フライトスーツ、改良型です。
縫製糸やタグの素材分析からも製造は過去15年以内。昭和20年の時間軸には存在し得ない装備です」
統幕情報部参事官
「……現代の米海軍? つまり、この遺体はタイムスリップ由来ということか」
医務官
「損傷が激しいため、認識票、個人名、部隊コードは特定できず。
血液型はO型Rh+、DNAは採取済みですが、防衛大学の設備では国際データベース照合が不可能です。
順天堂大学に移送し、米側の協力を得て詳細鑑定を行う予定です」
スクリーンが消えると、会議室は静まり返った。
この遺体がなぜ、昭和20年の大和艦内安置室に存在し、現代まで戻ってきたのか——