第117章 国防総省・情報分析室
壁の大型スクリーンには、横須賀港で一般公開中の巨大戦艦の映像が流れていた。
観光客が甲板を歩き、カメラを構えている。
しかし映像の端には、艦尾側で覆いのかかった作業用コンテナや、足場の一部がちらりと見えた。
分析官(海軍出身)
「これが昨日現地に入った我々の契約記者が撮影した映像です。
報道は“戦艦大和を模した記念艦”としていますが……甲板構造の一部が当時の設計と一致しません」
上席分析官
「一致しない?」
分析官
「はい。例えば艦橋後部に、第二次世界大戦当時には存在しなかったサイズの昇降口があります。
寸法的に、ドローンまたはミサイル発射管のアクセスハッチとして利用可能です」
別のモニターには、艦の側面図と熱画像が表示される。
一般客が入れない艦中央部の区画から、わずかな熱源が定期的に発生していた。
熱画像分析担当
「これは夜間に撮影したものです。
公開終了後も艦内で機器が稼働している可能性があります。
照明や空調だけでなく、何らかの試験機材の熱パターンです」
上席分析官
「つまり、観光客を乗せている間も内部改装は進行中ということか」
分析官
「その可能性は否定できません。
観光公開という“カバー”の裏で、艦の内部を段階的に近代化していると考えられます」
会議の最後、室内の照明が落とされ、スクリーンに再び横須賀港の俯瞰映像が映った。
艦の周囲には護衛艦2隻とタグボートが常駐し、港口の一部は立入禁止になっていた。
上席分析官
「……見せかけの記念艦か、それとも——準備中の戦闘艦か。
判断は急ぐな。だが、注視は続けろ」
画面の中で、巨大な艦影は観光客の笑い声の中、静かに波に揺れていた。
その鋼鉄の甲板下に、何が隠されているのかは、まだ誰も確証を持っていなかった。