第115章 電子戦下対空訓練(D-105)
むらさめ・電子戦下対空訓練(D-105)
東シナ海の演習空域。
曇天の下、「むらさめ」は8ノットで巡航していた。
CIC内では電子音が乱れ、画面上の目標マークが一斉に消え始める。
電子戦オペレーター
「敵機より強力な妨害波! FCS-3Aレーダー、追尾ロスト!」
白石一佐
「想定通りだ。シナリオBに移行——対空監視、目視モードに切り替え!」
艦橋の防空要員が双眼鏡を構えるが、雲と海の間に敵影は見えない。
その瞬間、艦橋横の観測所に立っていた西村中尉が叫んだ。
西村中尉
「二時方向、白雲の下、反射光あり! 距離……4千!」
双眼鏡で確認した士官が驚きの声を上げる。
「本艦、敵機らしきシルエット確認!」
白石一佐(内心)
(この距離で視認できるのか……)
西村中尉
「照準器、手動追尾! 高角砲、指向右20度上げ!」
現代ではほとんど使われることのない76mm速射砲の光学照準がカバーを開けられ、
砲手が半信半疑でトリガーを握る。
白石一佐
「発射、3ラウンド、急げ!」
甲板を震わせる発砲音が3度響き、曇天の向こうに黒い煙のしぶきが上がった。
妨害波の中、敵役の模擬機は回避行動を取らされ、演習空域を離脱する。
CICに状況復帰の報告が入る。
「目標撃破判定、1機」
白石は艦橋に顔を出し、西村の横に立った。
「……電子の目が潰れても、まだ艦は戦える。あんたのおかげだ」
西村は淡々と双眼鏡を下ろし、海を見た。
「海の上じゃ、目と耳が最後の武器ですからな」