第42章 作戦シミュレーション:“8機編隊の5分間”
(新寺子屋・戦史講義ホール。照明が落ち、スクリーンに「SIMULATION MODE」の赤文字が点滅する)
南條
「――さて。
第2章は“本番の交戦シミュレーション”だ。
状況設定は以下の通りだ。」
スクリーンに戦場地図。
■【状況設定】
ウクライナF-16:8機編隊(2×4編隊)
・AIM-120C-7、AIM-9X、JDAM、HARM
・Low-Low-Low侵入
・高度:40〜60m
・速度:520〜560ノット
・レーダー沈黙(EMCON)
・味方地上防空のLink-16で“眼”を借りる
敵:ロシア側
● A-50U ×1
● MiG-31BM ×2(R-37M)
● Su-35 ×4(R-77-1)
● S-400 ×1バッテリー
● S-300 ×2
● Pantsir ×4
● 電子戦部隊 ×1
● 早期警戒レーダー ×多数
南條
「では、時間T=0から“5分間”の推移を追っていく。」
◆【T = 0:00】 F-16 8機、侵入開始
F-16は3点姿勢の低空飛行で地面を舐めるように進む。
地表の草木がジェットブラストで波打つ。
野田
「40メートルって……教室の高さより低いじゃないですか……」
南條
「その通りだ。
だがこれより高く飛ぶと、A-50の側方レーダーの“下縁”に引っかかる。」
富沢
「あっちが“空全体を見てる”から、こっちは“地面スレスレで隠れる”のね」
◆【T = 0:35】 A-50、F-16の“ノイズ”を拾う
A-50のオペレーター
「南西方向、ノイズ……固定物か? いや……移動している……」
南條
「A-50はF-16を“完全には見えない”。
だが“気配”は捉えられる。
だからロシアは“MiG-31を前に出す”。」
◆【T = 1:10】 MiG-31BM、R-37M発射準備
MiG-31BM(高度11,000m)
「ベアリング045、距離280、ノイズ反応へ照準。R-37M 2発準備。」
亀田
「ちょっと! 280km離れてるのに照準できるの!?」
南條
「R-37Mは“ロケットではなく半ミサイル半迎撃機”。
推力が大きく、最終速度はマッハ6を超える。」
山本
「じゃあ当たらなくても撃たれるだけでF-16が動きを制限される……?」
南條
「その通り。
F-16はここで高度をさらに落とす。
地表20〜40mへ。
“R-37Mのレーダー捕捉に入らない高度”だ。」
富沢
「低空で地面ギリギリって……もうヒヤヒヤの世界……」
◆【T = 1:50】 F-16、レーダー沈黙のまま“地形影”に入る
ウクライナの地上レーダー(NASAMS部隊)
「F-16編隊、地形影の中。位置追尾継続。敵MiG-31は北上中。」
南條
「F-16は“自分で見ずに味方に見てもらう”。
これがネットワーク戦の本質だ。」
◆【T = 2:20】 ロシア、S-400が起動
ロシア防空レーダー
「ターゲット推定進路に対し、S-400照準エリア調整!
全ミサイル迎撃態勢!」
亀田
「うわぁ……もうバレてるじゃない……」
南條
「正確な位置はまだバレていない。
だが“S-400を起こす”だけでF-16のリスクは跳ね上がる。」
◆【T = 3:00】 F-16、攻撃目標へ到達(JDAM/HARM)
スクリーンに標的が映る。
● ロシアのレーダー車両(92N6E)
● ロジ拠点・弾薬庫
● 電子戦装置(Krasukha)
● 前線指揮所
南條
「F-16の役割は“空を取る”ことではなく、
ロシアの空戦能力そのものを切断すること。
そのための最優先目標は、“見張り役のレーダー車両”だ。」
◆【T = 3:10】 HARM発射(4本)
F-16によるHARM(AGM-88)発射。
白煙の軌跡が地上へ伸びる。
南條
「HARMは“レーダーがONのままならほぼ必中”だ。
ロシア側は“消すか、撃つか”の二択になる。」
富沢
「レーダーを消したらF-16が見えない。
つけたらHARMが飛んでくる……
ほんとに“鬼ごっこ”なんだ……」
◆【T = 3:40】 S-400、ミサイル発射
ロシア防空
「S-400、48N6DM 3発発射!」
轟音。巨大SAMが雲を突き抜ける。
野田
「来た……! これ、F-16どうやって避けるんですか……!?」
南條
「F-16はミサイルより低く飛んで、地形で“遮る”。
つまり“真上から落ちてくるミサイル”を避けるため、
谷や丘の陰に飛び込む。」
亀田
「そんな……ジェット戦闘機で地形の陰を選ぶなんて……」
南條
「だがそれをやるしかない。」
◆【T = 4:20】 JDAM投下(10発)
JDAM(GPS誘導爆弾)が投下される。
滑空しながら指定座標へ向かう。
南條
「JDAMは“投下した瞬間に任務完了”だ。
F-16はもう高価値目標へ向けての精密打撃を果たした。」
◆【T = 4:40】 Su-35 ×4、F-16を迎撃へ
ロシアSu-35(高度6,000m)
「前方20kmに低空反応。R-77-1準備!」
山本
「ここで空中戦!?」
南條
「いや、ここで空中戦はできない。
F-16は “撃たれる前に逃げる”。
AMRAAMのC-7では撃ち負けるからだ。」
◆【T = 5:00】 F-16、離脱開始
F-16編隊
「全機、右旋回。加速。低空維持で退避!」
南條
「F-16は空中戦をしない。
“攻撃して、逃げ切る”
これが任務だ。」
■【T = 5:15】 ロシア側の被害推定
シミュレーション結果がスクリーンに出る。
● 92N6Eレーダー車両 ×1:破壊
● 電子戦装置 ×1:損傷
● 弾薬庫 ×1:損失
● S-400の“指揮統制能力”が一時的に低下
南條
「F-16にとって最大の戦果は
“S-400の目を潰す”
ことだ。」
■【退避後評価】
F-16:1機損失(S-300V4の推定命中)
F-16:2機中破(近接SAM)
帰投成功:5機
作戦成功率:60〜70%
南條
「ウクライナ空軍の“死なずに帰る”確率は、
この作戦で6〜7割だ。」
野田
「……そんな、ギリギリの世界なんですね……」
南條
「そうだ。
だがこの“6〜7割”が、
ウクライナの地上戦力をずっと支えてきた。」
■【講義終盤:総括】
南條
「F-16は“無双”ではない。
むしろ“ロシア防空の牙の中で、死なずに任務を果たす”ための
極限運用だ。
だが――
この極限作戦が成功するたび、ロシアの空軍力は徐々に剥がれていく。
S-400の目、Su-35の指揮系統、MiG-31のCAP。
どれも永遠には維持できない。」
富沢
「一回じゃ戦争は変わらないけど……
百回積み重ねたら“空の形”が変わる……?」
南條
「まさにそれだ。」
■【ラスト質疑応答】
野田
「F-16って、地上にいる兵士たちの“盾”なんですね……」
南條
「その通り。」
亀田
「Su-35とまともに戦わないって決めてるの、逆にすごいわね……」
南條
「勝てない戦闘をしないのがプロの空軍だ。」
小宮部長
「じゃあF-16が増えたら、ロシアの進撃って止まりやすくなる?」
南條
「“止まる”ではなく
“遅くなる”。
だが、その遅延こそが地上軍を救う。」
重松
「MiG-31みたいな“長距離殺し屋”にはどう対処するんですか?」
南條
「対処はただ一つ――
“見つからない”ことだ。
F-16はステルスではないが、戦術で姿を隠す。」




