第41章《作戦ブリーフィング:F-16は“どう戦場に入るのか”》
(新寺子屋・戦史講義ホール)
巨大スクリーンに、黒海・ドニエプル川・アゾフ海・ヘルソン・ザポリージャ・ドネツクの地図が映る。
南條
「さて。今日から二章構成で“F-16とロシア防空網の実戦シミュレーション”をやる。
まず第1章は、作戦ブリーフィング編だ。」
野田
「いよいよ……“戦場に入るF-16”ですね……」
富沢
「映画の前半の、軍幹部が集まるブリーフィングみたいな雰囲気だね」
亀田
「こわいわよ。戦場マップを見るだけで胃がキュッとする」
南條
「その緊張感が現実の戦場である。
しかも――
F-16は“最も危険な空域”に投入される。
まずそこから説明する。」
■1. ロシア防空網の“多層構造”:F-16の前に立ちはだかる壁
南條
「スクリーンを見てくれ。」
地図上に、3つの巨大な同心円が描かれる。
① 外周:A-50Uの広域監視圏(最大600km)
② 中間:MiG-31BMのR-37M長射程CAP(最大300km)
③ 内殻:S-400/S-300の多層防空(150〜400km)
南條
「ウクライナのF-16は、この“3つの殻”を破って侵入しなければならない。」
重松
「なんかもう、RPGのラストダンジョンみたいな重ね方ですね……」
橋本副部長
「最初から“最強ボスの巣”みたいな感じですよね」
南條
「その例えは正しい。
ただし現実にはボスは“3体”いる。」
■2. 第1の脅威:A-50U早期警戒管制機
南條
「A-50UはロシアのAWACSだ。
最大600kmの探知範囲。F-16が飛び立った瞬間に“気配”を捉える。」
野田
「600km……? 日本から東京湾にF-16が飛んだのが九州から見える、みたいな距離……」
南條
「そうだ。しかもA-50Uは地上レーダーと常時リンクして“統合作戦指揮”をする。
つまり――
敵はF-16の位置・高度・速度を常に共有している可能性がある。
これが“情報優勢”だ。」
富沢
「こっちが姿を出す前から予約注文されてる感じですね……撃墜の」
■3. 第2の脅威:MiG-31BM + R-37M
“超長距離 空中迎撃網”
スクリーンにMiG-31BMの画像が出る。
南條
「MiG-31BMはF-16にとって最大の空中脅威だ。
理由は一つ。
撃墜レンジの桁が違うからだ。
R-37Mの最大射程は
約300km。
これは“視界にすら入っていない相手を落とせる”という距離だ。」
亀田
「ちょっと待って。300kmって……東京から新潟ぐらい……?」
南條
「そう。だからF-16は“当たらなくても”“撃たれるだけで”行動が制限される。」
小宮部長
「つまりF-16は“撃たれないための飛び方”をしないと死ぬ?」
南條
「その通りだ。
だからF-16は 低空で侵入する。
レーダーの地表反射を利用して
“見つからないように”進む。」
野田
「でも低空は危険って前回言ってましたよね……」
南條
「危険だ。
だが低空を飛ばないと、そもそもロシアの長距離攻撃圏で蒸発する。
F-16は“死と隣り合わせの低空侵入”を選ばざるを得ない。」
■4. 第3の脅威:S-300/400の“中距離・長距離ドーム”
スクリーンに円が重なっていく。
南條
「ロシアがウクライナで展開するS-300/400は、
150〜400kmの射程を持つ。
S-400(40N6ミサイル):400km
S-300PMU2:200km
S-300V4:最大300km
この“重ね合わせ”で、
**ウクライナ全土の1/3が“死の空域”**になっている。」
富沢
「F-16はどこを飛んでも危ないじゃん!」
南條
「だからF-16は
●低空侵入
●レーダー非発信
●友軍防空レーダーから“情報借用”
●奇襲ルート
これらの“技術と戦術を同時に回す”必要がある。」
■5. F-16は“単独では絶対に入れない”
統合作戦の中核は“データリンク”
南條
「F-16は優秀だが、
単独ではロシア防空網に入れない。
だからウクライナのF-16は“ネットワークの一部”として機能する。」
スクリーンに作戦図が映る:
● 後方:NASAMS / Patriot / IRIS-T のレーダー
● 中央:無人機(RQ-20、など)
● 前方:電子戦車両
● 空中:F-16
● 全体をつなぐ:Link-16
南條
「これが“統合火力ネットワーク”。
F-16はこのネットワークの“空中ナイフ”だ。」
小宮部長
「つまり、F-16自身の目は弱いけど、みんなの目で戦う?」
南條
「完璧な理解だ。
ロシアは“単機で強いSu-35”だが、
ウクライナは“ネットで強いF-16”を目指す。」
■6. 作戦の目的は“空を取ること”ではない
――“ロシアの空を奪うこと”
南條
「F-16の目的は制空権確保ではない。
そんなことはSu-35・MiG-31の迎撃網の前では不可能だ。
F-16の目的は――」
南條は黒板に太字で書く。
『ロシアが空を自由に使えないようにすること』
野田
「“勝つ”んじゃなくて“相手の勝ちを邪魔する”……?」
南條
「その通りだ。
ウクライナは“相手の制空活動を抑え込む”ことで地上戦力を守る。」
■7. 対地攻撃の本命:JDAM・HARM・SDB
スクリーンに攻撃波の図。
南條
「ウクライナF-16の本命は
対地打撃だ。
● JDAM(GPS誘導爆弾)
● SDB(小直径爆弾)
● HARM(対レーダーミサイル)
● JSOW(滑空兵器、一部供与候補)
これらの武器は“ロシアの防空レーダー・弾薬庫・重要拠点”を潰す。」
橋本副部長
「F-16は空中戦機じゃなくて“精密打撃機”になるんだ」
南條
「むしろそれが本質だ。
米空軍はF-16を“爆撃機として”最も多く使ってきた。」
■8. ロシア防空網への“最初の侵入”シミュレーション
F-16はどう動く?
南條
「F-16 8機編隊の行動を簡単に示す。」
1.離陸直後から低空(20〜60m)へ下降
2.レーダー沈黙。味方地上レーダーからデータを受信
3.A-50の監視円を避けるルートへ
4.MiG-31 CAPのR-37M攻撃圏の外を斜めに抜ける
5.S-300/400圏の“谷間”に侵入
6.JDAM/SDBの投下ポイントへ到達
7.投下後、反転し上昇→高速退避
南條
「このどこか一つでも誤れば――」
黒板に大きく書く:
『即撃墜』
亀田
「……そんな世界で飛ぶの、想像できないわ……」
■9. それでもF-16は必要
――“生存する空軍”は地上戦を救う
南條
「地上戦の死傷率は、上空に敵航空機が来るかどうかで倍以上変わる。
F-16がロシアの航空支援を妨害するだけで、
ウクライナ地上軍は“生き残る確率が跳ね上がる”。」
野田
「F-16って……空を守るんじゃなくて“地上を守る”ものなんだ……!」
南條
「その通りだ。
これから第2章で、実際の“交戦シミュレーション”を行う。」




