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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第40章 ウクライナに供与されたF-16の“実戦スペックと制約



《新寺子屋・戦史講義ホール:南條講義》


(黒板に大きく“F-16 for Ukraine:実戦スペックの現実”と書かれている)


挿絵(By みてみん)


南條

「はい、皆さん。今日は――

**ウクライナに供与されつつあるF-16の“実際の性能”と“本当にできること/できないこと”**を、

戦術・エレクトロニクス・運用制約まで含めて細かく話します。


まず結論から言う。


ウクライナが受け取るF-16は、“西側制空権を持つ国向けの戦闘機”を、制空権ゼロの国が使うという極限運用になる。

だから“本来のF-16性能”がそのまま出せるわけではない。」


(野田たち、メモを持って姿勢を正す)


■1. 供与されるF-16の型:Block 20 MLU(実質的Block 50相当)


南條

「ウクライナに来る機体は基本的に、

**デンマーク、オランダ、ベルギーの“MLU改修済みBlock20”**だ。


これは“古いBlock15を大改修して、電子装備をBlock50並みにした”という機体だな。」


富沢

「古いのを改造した、みたいな?」


南條

「ああ。だが侮れない。

MLUの中身はレーダー・航法・管制装置・データリンクが大幅に近代化されている。


● APG-66(V)2Aレーダー

● Link-16対応

● JDAM/JSOWなど精密誘導兵器への対応

● 新型ミッションコンピュータ

● フルカラーMFD

● AIM-120B/C対応


という内容だ。


つまり、“見た目は旧式でも中身は中堅クラスの現代戦闘機”と見ていい。」


亀田

「へえ〜、やるじゃない。昭和の家をリフォームして最新家電を入れたみたいね」


南條

「比喩としては正しい。

ただし、その“最新家電”をフルに使う環境がウクライナにはほぼ無い、という問題が後で出てくる。」


■2. レーダー:APG-66(V)2A ― 対地精密攻撃重視


南條

「供与機のレーダーはAPG-66(V)2A。

これは“F-16初期型の発展版”で、現代のAESAに比べればかなり弱い。」


小宮部長

「弱いって、どれくらい?」


南條

「対空探知距離は

● 3㎡級目標(Su-30等):70〜80km程度

● 1㎡級小型目標(MiG-29級):50〜60km

このあたりだ。


ロシア側の

● Su-35の“IRBIS-E”(最大350km級)

● MiG-31BMの“Zaslon-M”(280km級)

これらと比べると圧倒的に短い。」


野田

「えぇ…じゃあ向こうのレーダーに全然勝てないじゃないですか」


南條

「勝てない。

だからウクライナのF-16は正面からのBVR(長距離レーダー戦)はできない。

これは戦術の根幹に影響する。」


■3. ミサイル:AIM-120B/C ― “迎撃レンジ短めのAMRAAM”


南條

「供与される主力ミサイルは、

基本的にAIM-120B と AIM-120C-5/C-7になる。」


橋本副部長

「最新型じゃないの?」


南條

「最新はD型だが、

アメリカは“ロシアに技術解析されるリスク”を嫌って、まず渡さない。


AIM-120B:最大40〜50km級

AIM-120C-5:60〜70km級

AIM-120C-7:70〜80km級


という射程帯だ。」


重松

「Su-35のR-77やR-37と比べると?」


南條

「R-77-1は100km級、

R-37Mは200〜300km級だ。


つまりBVR戦において

ウクライナF-16は“撃たれる前に撃てない”構造になっている。」


山本

「それ…どう考えても不利すぎません?」


南條

「だから、ウクライナが狙うのは

①地対空ミサイルとの統合

②低高度侵入からの奇襲

③高価値目標へのピンポイント打撃

この三本柱になる。」


■4. 生存性:F-16は“低空戦”に弱い


南條

「F-16は性能こそ良いが、

単発・吸気口が機体下面・主翼は薄翼という特性がある。


これは

● 高機動性

● 高速

● 低抵抗

を生む一方で、


吸気口が地表面に近い=低空での異物吸引に弱い

単発=被弾時の生存率が低い

という弱点が出る。」


亀田

「つまり、地面スレスレを飛ぶのは危ないのね?」


南條

「危ない。

だがロシアのA2/AD圏(S-300/400地帯)では、それをやらざるを得ない。」


富沢

「うわぁ…“低空は弱いのに低空が必要”って最悪の組み合わせじゃ…」


南條

「その通り。」


■5. ウクライナの防空システムとの統合


南條

「ただし希望もある。

ウクライナは“西側防空システムとの連携”を進めている。」


● NASAMS

● IRIS-T SLM

● Patriot PAC-2/PAC-3

● C2(指揮統制)ネットワークの整備

● 空軍の“分散滑走路”訓練


これらとリンク-16で結合することで、

“F-16が前に出ずとも、後方からAMRAAMを撃つ”という運用が可能になる。


小宮部長

「前に出ずに撃つ?」


南條

「そう。“味方レーダーの情報を借りて撃つ”という方式だ。」


これを

Cooperative Engagement(協同交戦能力)

と呼ぶ。」


野田

「それって…F-16がロシア機と正面から向き合わなくていいってことですか?」


南條

「そういうことだ。これがF-16の“生存性の鍵”になる。」


■6. 地上攻撃能力:JDAM / HARM / SDB


南條

「むしろウクライナが最も効果を期待しているのは、

対地攻撃能力だ。


特に

● JDAM(GPS誘導爆弾)

● AGM-88 HARM(対レーダーミサイル)

● SDB(小直径爆弾)


これらは

“ロシアの地上レーダー・物流ハブ・橋梁・弾薬庫”

に確実な打撃を与える。」


橋本副部長

「もうHIMARSみたいなノリでピンポイント攻撃ですね」


南條

「まさにそう。

特にSDBは射程110km、精度は2〜3mと極めて高い。」


富沢

「110km!? もう爆弾じゃなくてミサイル…」


南條

「そう。その“精密打撃力”こそがウクライナF-16の本命だ。」


■7. ロシアの“飛行場攻撃”への対策


南條

「ウクライナの最大の課題は“飛行場の生存性”だ。

ロシアはF-16の配備地点を特定して、

Iskander・Kh-22・Geran-2(シャヘド)・S-300地対地モード

などで攻撃してくる。」


野田

「それ…滑走路壊されたら飛べないじゃないですか」


南條

「だからウクライナは

● 隠し滑走路

● 分散小基地

● 高速道路運用

● カバー付き格納庫

を同時並行で整備している。


北欧の‘ベース分散思想’を部分的にコピーしているわけだ。」


亀田

「ほんとに…命がけの隠れんぼね」


■8. F-16導入の“本当の意味”


南條

「最後に――

F-16が戦況を劇的に変えるか?


答えは“段階的にはYESだが、即効性はNO”。」


● BVRではロシアに勝てない

● だが地上打撃とレーダー抑制は大きく改善

● 西側防空網と統合すれば“広域迎撃”が可能

● ロシアは前線航空運用を大きく制限される

● ウクライナの空軍力が“生存する”ことで、地上軍の損耗が減る


富沢

「つまり“空で勝つ”ためじゃなくて“地上を守るための空”って感じ?」


南條

「その理解でほぼ正しい。」


野田

「F-16が来ると、ウクライナはどれくらい戦いやすくなるんですか?」


南條

「“一桁パーセント”ではなく“二桁パーセント”で前線持久力が上がるレベルだ。

特に

● ロシアの長射程レーダー車輛

● 弾薬倉庫

● 対空レーダー

これらを潰せることは非常に大きい。」


■【質疑応答パート】


野田


「F-16って、戦争が長引くほど価値が増すってこと…?」


南條

「そう。

“戦力を削られない空軍”は、長期戦で国家の骨格を保つ。

だからF-16は“戦争継続力の強化装置”なんだ。」


富沢


「でも、ロシアのSu-35がうようよいる上空で大丈夫…?」


南條

「大丈夫ではない。

が、“Su-35が自由に飛ぶ”状況は確実に減る。」


亀田


「HARMでロシアの防空レーダーを叩くって、もうイタチごっこよね?」


南條

「だがそのイタチごっこが“ウクライナに主導権を返す”のだ。」


小宮部長


「もしAIM-120Dを供与されたら?」


南條

「戦況が一段階変わる。

D型は160km級だから“撃ち負ける”領域が消える。」


山本


「それ…渡す可能性ありますか?」


南條

「政治状況次第だ。

ロシアが核脅迫を繰り返すほど、アメリカは渡しやすくなる。」


重松


「総括すると…F-16は“万能ではないけど、戦争の骨格を変える兵器”?」


南條

「その一言に尽きる。」


■【南條・講義総括】


南條

「F-16は“ウクライナ空軍の復活”を意味する。

制空戦ではロシアに勝てないが、

精密打撃・電子戦・防空ネットワーク統合で

戦場の構造そのものを変える可能性がある。


――“空を支配する”のではなく、

――“空を失わない”ための戦闘機。


これが、ウクライナにとってのF-16だ。」


(野田たち、息を呑んで講義終了の鐘を聞く)


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