第39章 レオパルト2A6乗員4名の“1戦闘5分間” ②
【01:05】
■車長視点
「敵屋上無力化。砲手、次の掃射へ移れ。
操縦、前進、速度8!」
都市の空に火粉が舞う。
戦車のエンジン音が反響して建物全体を震わせる。
【01:10】
■操縦手視点
道路の中央に、路面の“黒く焦げた円”がある。
IED。
操縦手の胃が縮む。
「……車長、正面、地雷かIEDの痕跡……回避経路要請」
車長
「左路地へ迂回!角度は20度!」
操縦手は反射的にハンドルを切る。
【01:12】
■砲手視点
左の路地は暗い。
熱線映像でもノイズが多く、敵影を断定できない。
「車長、左路地視界悪い、熱源散在……!」
【01:15】
■外部視点
左路地の奥。
車の陰。
そこに潜む別のRPGチームが、
まさに照準を合わせていた。
だがまだ撃たない。
もっと近づくのを待っている。
【01:20】
■装填手視点
揺れの中、次の弾、HEAT-MPを抱えたまま、
装填手は目を閉じて揺れの周期を感じ取る。
“前へ傾く……戻る……また傾く……”
谷が来た。
装填――
カチャン。
【01:23】
■砲手視点
熱線映像の奥――
一瞬、光が跳ねた。
それは……
ロケットモーターの反射。
「車長!左路地奥、AT射手確認!距離50!」
車長
「操縦止まれ!」
【01:24】
■操縦手視点
ブレーキ。
戦車が沈むように停止。
履帯の軋み。
狭い路地で巨体が“呼吸を止めた”。
【01:25】
■外部視点
路地奥のRPG射手が引鉄を絞る——
まさにその瞬間。
【01:26】
■砲手視点
十字がその影を捉えた。
距離近すぎ、揺れ激しい。
だが……迷っている暇はない。
「射撃!」
引き金。
【01:27】
■外部視点:近距離砲撃
120mm砲弾が路地の入口で炸裂。
爆風が左右の壁に跳ね返り、
路地全体を“真っ白な圧力”で満たした。
RPGチームは吹き飛び、
周囲の車ごと破壊される。
【01:32】
■車長視点
「敵RPGチーム無力化。
全乗員、生存確認。」
耳の奥で自分の鼓動が響く。
戦車の中の空気は、
砲撃の熱で重く、焦げ臭い。
【01:40】
■操縦手視点
「……操縦、生存……前進可能……」
ハンドルを握る手が震えている。
ブレーキを離し、ゆっくりと進む。
路面が再び揺れ始める。
【01:55】
■砲手視点
照準器越しの世界は、
もう“色”ではなく“情報”に見える。
穴。
影。
熱源。
乱れ。
砲手の眼は、
恐怖で研ぎ澄まされていた。
【02:20】
■装填手視点
腕が痺れ始める。
だが、
戦闘はまだ終わっていないことが体にわかる。
弾倉を見つめて、
次の“谷”を探す準備をする。
【03:00】
■外部視点(市街全景)
レオパルト2A6は煙の中を進む。
歩兵がその両脇を走り、
ドローンが上空を舞い、
遠くで砲声が響き続ける。
戦車の砲塔はゆっくり左右に動き、
四人の乗員は必死に“世界を見ようとしている”。
だが世界は広すぎ、
戦車の中は狭すぎる。
【04:30】
■車長視点
「全周クリア。
次の交差点へ向かう。」
彼は喉を鳴らし、
頭の奥の痛みを押し返す。
“まだ、終わっていない”
【05:00】
■全視点同時:
― 5分間生存した戦車乗員の“沈黙”
砲手:照準器から目を離せない。
操縦手:ハンドルの汗を拭えない。
装填手:腕が震えるまま、次の弾を抱える準備。
車長:次の死角を探す。
5分戦っただけで、
4人は“1日分の体力”を消費していた。
だが、これが都市戦の真実だった。
■エンディング
南條がホールの照明を上げる。
南條
「これが、レオパルト2A6乗員の“5分”だ。
外から見る強さと、中の現実は全く違う。
戦車の性能ではなく——
4人の技量、恐怖、判断、同期。
それだけが戦車を生かす。」
野本は震える声で言った。
野本
「……戦車って……“4人の命綱”なんですね……」
富山
「5分で心が壊れそうでした……」
亀山
「戦車の中って……人間の弱さがむき出し……」
小宮部長
「だけど、強さもだね……」
重子
「4人が一緒じゃなかったら絶対生き残れない……」
山田
「……これが、最前線……」
南條は静かに頷いた。
南條
「戦車は“鉄”ではなく、人間でできている。
都市戦はそれを容赦なく試す。
そして、生き残った時——
人間の強さも弱さも、すべて露わになる。」




