第37章 レオパルト2A6 ③
【第3章】
“都市は戦車を壊し、人間を残す”
――レオパルト2A6が都市戦で失ったもの、そして残ったもの
■1 戦車は“性能”ではなく“乗員の技量”で戦う兵器だった
VRが静かに点灯する。
だが、今回映るのは炎上する市街地でも破壊された車両でもない。
1人の砲手の手元
1人の装填手の腰の動き
1人の車長の照準器操作
1人の操縦手のブレーキ圧
それら“乗員の操作行為そのもの”が巨大スクリーンに拡大されて表示される。
南條
「第1章と第2章で見せたのは“環境と兵器”。
第3章では“人間と操作”を見てもらう。」
■2 【車長(Commander)】
― 視界と情報の“全責任者”
●(操作1)PERI R17の旋回
•両目で接眼
•ジョイスティック式のハンドルで360°回転
•旋回速度は3段階
•市街戦では“遅い旋回”を選ぶ
→ 見落とし防止のため
小宮部長
「えっ、速く回せば広く見えるんじゃないの?」
南條
「都市では“速い=見逃す”。
屋上の影、路地の射手、窓のわずかな反射……
全部、低速で探さないと見えない。」
●(操作2)“Slave-to-Gun”(照準移譲)
車長が敵を発見すると、
•照準マーカーを敵に合わせ
•“DESIGNATE”を押す
•砲塔が自動でその方向へ向く
•砲手へターゲットが移譲される
野本
「車長って……砲撃ボタンを押す人じゃなかったんですね……?」
南條
「戦車の“眼”と“判断”が車長。
“手”は砲手だ。」
●(操作3)交戦判断
•距離
•角度
•敵の装備
•周囲の歩兵
•建物の破壊リスク
•弾種の残量
これら全てを“2秒以内”に判断する。
■3 【砲手(Gunner)】
― EMES15とトリガーで戦車の“刃”を操る
●(操作1)照準器EMES15のスキャン
砲手は左頬を固定し、
右目で接眼して十字を動かす。
操作方法:
•左手で照準ハンドル
•右手でトリガー
•ハンドルは上下左右に微動
•拡大倍率(×12)へ即切り替え
•サーマル強度を調整
富山
「こんな細かい動き……揺れてるのに……?」
南條
「揺れを“体で吸収”しながら細かく動かす。
熟練砲手は“呼吸”まで合わせる。」
●(操作2)安定化装置の癖を読んで補正
レオパルトの安定化は優秀だが、
都市では路面の起伏で照準が“跳ねる”。
砲手は……
•車体の揺れ
•ブレーキのタイミング
•履帯の段差越え
これらを“予測しながら”照準を動かす。
山田
「予測って……未来視でもしてるんですか?」
南條
「経験だ。
戦車砲手は“戦車と身体が同調”するまで育てられる。」
●(操作3)トリガー
•半押しで安定化強制モード
•全押しで発射
•反動でレティクルが吹っ飛ぶので、すぐ再照準
■4 【装填手(Loader)】
― 都市戦こそ“もっとも肉体が必要な係”
VRは装填手の腰の動作にズームされる。
レオパルトの装填手は自動装填ではないため、
全て人力。
●(操作1)弾種選択
種類:
•APFSDS(対戦車)
•HEAT-MP(多目的)
•HE(建物破壊)
都市戦ではHEAT-MPが増える。
装填手は、
砲塔の揺れを読み、揺れの“谷”で弾を引き出す。
亀山
「谷……?揺れてる中で……?」
南條
「熟練装填手は“揺れの波”を読む。
サーファーと同じだ。」
●(操作2)ブリーch開閉
砲が発射されると、自動で薬莢が排出される。
装填手は
•排出位置に立ち位置を変え
•手袋で熱を避け
•ブリーchに弾を差し込み
•ロックする
※タイミングがずれると指が挟まる。
※訓練では“指の模型”がよく壊れる。
●(操作3)安全装置(Safe/Fire)の確認
•砲手と“Fire”確認
•車長の命令
•自分の体の位置が“砲の可動域”から外れているか確認
南條
「装填手は“戦車砲に殺されないように戦う”。
戦車は仲間を容赦なく潰すぞ。」
■5 【操縦手(Driver)】
― 基本操作だけでも“3人の命を握る”
VRが操縦席の視界へ。
●(操作1)前進・後退
レオパルト2A6の操縦は自動車よりシンプルだが難しい。
•アクセル
•ブレーキ
•スティック式ステアリング
•変速は自動(4速)
小宮部長
「車みたいに運転できるわけじゃないんですね……?」
南條
「戦車は“スキー板で車を運転する”ようなものだ。
滑る、跳ねる、曲がらない。」
●(操作2)角の入り方
交差点に入るとき、
操縦手は“砲塔の向き”と“歩兵の位置”を同時に考える。
•砲身を角にぶつけない
•歩兵を轢かない
•車体の角度で側面の露出を抑える
•RPGの死角に入らないよう微調整
•路面の穴を踏まない
これら全てを“3秒以内”で判断。
山田
「3秒って……!」
南條
「遅ければ死ぬ。
速すぎれば死ぬ。
操縦手は“速度の哲学者”だ。」
■6 戦車が都市で“失ったもの”
スクリーンに、
取り回しの悪さ、
側面ヒット、
長砲身の接触、
死角の多さ、
履帯被弾の映像が出る。
南條が静かにまとめる。
南條
「レオパルト2A6が都市戦で失ったのは——」
•正面装甲の優位
•機動力
•射程と貫通力のアドバンテージ
•巨大砲身の強み
•安全性
•心理的“威圧力”
富山
「……全部じゃないですか……?」
南條
「だろう?
都市は“戦車の武装を全て剥ぎ取る地形”だ。」
■7 それでも残ったもの
― 戦車最後の価値は“乗員の合奏”
スクリーンが切り替わり、
4人の操作が一斉に表示される。
●車長
敵を見つけ、指示し、優先順位を付ける。
●砲手
照準し、弾道を読み、撃つ。
●装填手
揺れの谷を読み、弾を入れる。
●操縦手
速度、角度、位置を調整し“死角”を消す。
これらが完璧に同期した瞬間——
レオパルト2A6は都市でも“最強の盾”となる。
野本
「……4人が合体して、やっと戦車なんですね……」
南條
「そうだ。
戦車は“兵器の形をしたチームスポーツ”だ。
都市戦では、人間の技量が兵器性能より重要になる。」
■8 結論:戦車の時代は終わっていない。
― ただし、戦車は“人間を中心に再定義された”
南條が締める。
南條
「都市戦によって戦車の役割は変わった。
だが消えたわけではない。
レオパルト2A6は、
“突撃の王”から“歩兵の守護者”へ進化した。
それを支えるのは……」
彼はスクリーンに映る4人の操作を指差した。
南條
「乗員の技術、連携、直感——人間そのものだ。
都市戦は、それを最も美しく、そして悲惨な形で浮かび上がらせる。」
全員が息を呑む。
誰も“機械の話”を聞いているとは思えなかった。
彼らが見ていたのは、
人間の極限と、戦場での生存そのものだった。




