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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第31章 ゲパルト自走対空砲①


——新寺子屋・戦術シミュレーションホール

薄暗いドームに、巨大な砲塔模型がホログラムで浮かぶ。

左右に伸びた2本の35mm連装機関砲、後方にはレーダーアンテナ。

無骨で、旧式の臭いのするシルエット——だが、その姿には奇妙な迫力が宿ってい

る。

挿絵(By みてみん)


■ “時代遅れの怪物”が、世界で一番忙しい兵器になった理由

【南條】

「今日扱うのは——ゲパルト自走対空砲。

1970年代の対空兵器だ。

本来、最新のミサイル防空網に取って代わられ、

“退役寸前の骨董品”だった。」

(野本が首をかしげる。)


【野本】

「そんな昔の兵器が……なんで今、ウクライナで……?」


【南條】

「それは——

“ドローン戦争”という、ほとんど誰も予想しなかった戦場が生まれたからだ。

戦車よりも、航空機よりも、

『300ドルの自爆ドローン』が最大の脅威になった世界で、

ゲパルトだけが“正しい時代”を迎えた。」

(スクリーンに FPVドローンの高速飛翔映像が映る。

視点揺れ、ビル影をかすめ、地面すれすれで突進してくる。)


富山

「……音が、怖い……。蜂みたい……。」


南條

「そう。実際、兵士は“蜂の大群”と呼ぶ。

そして蜂を落とすには——

ミサイルでは遅すぎる。

電波妨害では不十分。

だから“弾幕”が必要になる。」


■ゲパルトの構造:“弾幕の方程式”

ホログラムが分解し、ゲパルトの内部が透けていく。


▼1. 35mm Oerlikon KDA 機関砲 ×2

発射速度:550発/分 ×2 = 1,100発/分

弾丸速度:1,175m/s


【南條】

「戦闘機時代の“高速、近距離、精密対空機関砲”。

これがドローンには最適だった。」


【亀山】

「こんな古そうな砲で、ドローン落とせるの……?」

南條

「ドローンは遅い。

戦闘機の1/50以下の速度。

だから“古い対空砲”が完璧に噛み合う。」


▼2. AHEAD弾(空中炸裂型)

直径3.6gの金属ペレットが150個散布される。


重子

「ペレットって……散弾みたいなものですか?」


南條

「そうだ。

空中で弾が開き、金属片が“雲”のように広がる。

ドローンはその雲につっこめば即撃破。」


野本

「……蜂の群れには、虫取り網……みたいな……?」


南條

「比喩としては正しいが、網ではなく“高速飛翔する金属嵐”だ。」


▼3. レーダー ×2基

•検知:15km

•追尾:10km

•射撃解法:自動計算


【橋本副部長】

「レーダーが二つ……何に使うんです?」


南條

「一つは索敵(探す)。

もう一つは追跡(追う)。

“探す → 追う → 解法 → 発射” を全部1台で完結できる。

これがゲパルトの強さだ。」


■ドローンを落とす技術は“狙うことではない”

(スクリーンに、幅10cmのFPVドローンが高速接近する映像。)


富山

「え……これ、当てるの……?

こんなの、見えなくない……?」


南條

「だから狙わない。

“通り道に弾幕を置く”。

これが対ドローン戦の本質だ。」

(ゲパルトの射撃解法が映る。)


南條

「レーダーで位置・速度・加速度を計算。

将来位置を予測し、そこで時限信管付きのAHEAD弾を爆発させる。

金属片の雲にドローンが突っ込めば撃破。」


■実技:ゲパルトの射撃制御を体験

ホール中央にゲパルトのFCS(火器管制システム)コンソールが投影され、

全員が座る。


▼手順1:レーダー起動

(アンテナが回転し、周波数変調が空気を震わせる。)


【南條】

「ドローンは反射面積が小さい。

“鳥と見分ける”のが第一の仕事だ。」


山田

「どうやって見分けるんですか……?」


南條

「速度。

鳥は60km/hが限界。

FPVは150km/hで突っ込んでくる。

ドローンは自然界の生物より速い。

だから識別できる。」


▼手順2:追尾モード

(レーダー追尾枠が動くドットを捕捉する。)


南條

「追尾は自動。

ただし、妨害電波で追尾が外れることがある。

その時は射撃手が“光学照準”で補助する。」


野本

「人間が……助けてあげるんですね……?」


南條

「そうだ。

兵器は万能ではない。

人間が足りない部分を埋める。」


▼手順3:射撃解法(自動計算)

•弾速

•風

•温度

•ドローンのベクトル

•AHEAD弾の開花タイミング

をすべて計算し、最適点に弾幕を置く。


【亀山】

「これ……計算が速すぎる。

人間じゃ無理ね……。」


南條

「無理だ。

だからゲパルトは“古いが最先端”なのだ。」


▼手順4:射撃(1,100発/分の金属嵐)

南條

「撃て。」

(重低音とともに、35mm砲が左右同時に火を吹く。

火線が空に伸び、弾が空中で炸裂して

金属片の雲が広がる。)

(FPVドローンがその雲に突っ込み、翼が吹き飛び、墜落する。)


富山

「……当たった……!」


南條

「弾は一発も“ドローンに直接命中”していない。

だが“通過しただけで死んだ”。

それが弾幕という技術だ。」


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