第108章 横須賀第3ドック・大和艦内改修打ち合わせ(D-149)
艦内通路には仮設照明がぶら下がり、鉄と油の匂いが満ちている。
弾薬庫手前の区画で、防衛省の技術官、民間造船所の現場主任、そして昭和の大和乗員が図面を広げて立っていた。
民間造船所主任・安西
「ここの外板に爆風吸収パネルを溶接する案ですが、厚みは最低でも80ミリになります。
既存のリブ(船体肋骨)の強度を超えないよう、支柱の追加が必要です」
防衛装備庁・構造技術官・小牧
「支柱は高張力鋼でお願いします。溶接は内側からも当てる二重構造に。
ただし工期は3日延びる見込みです」
大和砲術長・村瀬少佐
「工期を削る方法はないのか? 弾薬庫の補強が遅れたら、砲撃の準備に支障が出る」
安西
「外板補強は後回しにして、まず内側の隔壁と自動防水ハッチを先行施工する手もあります。
これなら弾薬庫の防水化だけ先に完了できます」
小牧
「隔壁はCICと機関部にも同型を設置します。浸水センサーは光ファイバー式で、感知から2秒以内に作動」
村瀬少佐
「2秒……昭和の手動閉鎖に比べりゃ夢みたいだな。
ただ、ハッチが作動する前に中の人間を巻き込まれないよう、警告シグナルを付けろ」
安西
「了解。赤色警報灯とブザーを追加します。作動前に1.5秒の警告を出す仕様にしましょう」
小牧
「甲板上の兵装区画も追加装甲二層構造です。
セラミックとケブラー層の間に衝撃吸収材を入れますが、砲弾の爆風で剥離しないよう接着剤を耐熱型に変更します」
村瀬少佐
「その追加装甲、重さはどのくらいだ?」
安西
「全体で約180トン。艦の安定性には影響しますが、燃料搭載量を若干減らして重心バランスを取ります」
村瀬少佐
「燃料が減れば行動半径も縮む……まあ、沈むよりはマシだがな」
会話が一段落すると、安西が図面を丸めながら呟いた。
「……心臓と牙だけを守るってのは、案外割り切りが要る仕事ですね」
村瀬少佐は静かに笑った。
「戦場じゃ、全部を守ろうとする艦は真っ先に沈む。
生き残るのは、守るべき場所を間違えない艦だ」