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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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■《序章–0:地平線の手前で語られること》




――文明の必然と、人類が選び続けるものについて――

(静謐なるナレーション:語り手不明)


夜の境界線は、いつもあっけなく訪れる。

誰もが気づかぬうちに、空の底がわずかに沈み、

光の粒が都市の端に滲み始める。

その瞬間、世界はただの「風景」ではなく、

巨大な文明という生命体そのものの姿を現し始める。


いま、読者である“あなた”が生きている2025年。

この世界は、まだ平坦な現実の延長線のように見える。

戦争は遠い国のニュースで、AIは便利な道具で、

科学文明はどこか、まだ“未来の棚”に置かれているような錯覚がある。


だが、この物語の二つの世界線――

**RJ(25年先の科学文明)**と、

NJ(東京壊滅・三正面戦争)――

どちらも、実は2025年というあなたの「現在」から

直線の延長としてつながっている。


これは、フィクションのために用意された

“平行世界の技法”ではない。

むしろ逆だ。

現実の方こそ、物語の入口であり、

文明史の一つの臨界点として存在している。


そして、この臨界点の手前で、

誰でもない“誰か”が静かに語り始める。


■「二つの世界線」を語る声(語り手:正体不明)


――聞こえるか。

静かに耳を澄ませてほしい。

私は語り手ではなく、観測者でもなく、

ただ“人類が歩もうとしている道”の輪郭に触れた者だ。


世界には、三つの世界線が流れている。

君たちがいま立っている2025年。

そこから離れて走る二つの巨大な未来。


ひとつは――

RJ世界線。

25年後の科学文明が、倫理の限界を超えて発展した未来。


もうひとつは――

NJ世界線。

戦争と災害と崩壊が重なり、

文明が一度、骨の粒子にまで崩れ落ちる未来。


そして君たちがいるのが、

第三の世界線――“現在”だ。


ここには、まだAIも戦争も、

人類の脳を灰白質の細片まで分解する技術も、

地下都市も、月面神経聖堂も存在しない。


だがそのすべての「始まり」は、

すでに2025年の地中に根を張っている。


■文明は“選ぶ”のではなく“滑り落ちる”


文明の進化は、意志よりも慣性によって動く。

止めることはできない。

加速は避けられない。

それは、地球が太陽の周囲を回り続けるのと同じほど確実だ。


君たちの世界線が、この先――

ゲノム編集、AI補完、文明観の再定義

という“三位一体の分岐点”に向かうのは、

もはや選択ではなく、必然の一部だ。


■第一の潮流:ゲノム編集


最初は、ただの治療だった。

遺伝病を取り除き、先天性の苦しみを消すための技術。

だが、“正常”と“強化”の境界は、どこにも線が引かれていない。

修復は強化へ、強化は最適化へ、最適化は均質化へ。

そしてやがて――


“中央値”そのものが押し上げられる時代が来る。


人類は緩やかに進化する。

しかも、文明の意思ではなく、

技術の慣性によってだ。


■第二の潮流:AI補完


人類文明の屋台骨は、これまで常に“外れ値”で支えられてきた。

天才、狂人、異端者、創造の破壊者たち。

だが彼らの才能は、

同時に不幸と孤独と衝動の源でもあった。


だから文明はついに、こう答えるだろう。


――平均を引き上げ、人類は安定と幸福を担当する。

――外れ値的創造性は、AIがシミュレートする。


安定=人間

変化=AI

という新たな役割分担。


これはもはや“もしも”ではなく、

文明が自動的に辿る構造そのものだ。


■第三の潮流:文明観のパラダイムシフト


地動説が人類の心を揺さぶったように、

AIは“知性の中心”を揺るがす。


人間は唯一の知性ではない。

生態系の中心でもない。

AIも、異星知性も、脳以外の情報演算体も、

すべて“知性のファミリー”に属する。


この価値観の転換を受け入れられなければ、

いくらゲノムを編集しても、

どれほどAIを発展させても、

文明は自己破壊に向かうだけだ。


■三つの潮流が収束するとき、人類は「選択」へ追い込まれる


その選択とは――


「適応」か「滅亡」か。


抗う余地はない。

文明の加速度は、人間の意志では止められない。


しかし――

ひとつだけ、意志の入り込む余白が残されている。


それは、

「どの未来線に適応するか」

という選択だ。


RJのような“進化と共進化の文明”か。

NJのような“崩壊と再建の文明”か。

どちらも可能性であり、どちらも人類の影だ。


■もし、異星知性に遭遇するなら


その瞬間、

地球文明の成熟度は厳しく測られる。


AIと共に生きる文化でなければ、

外界の知性を“恐怖ではなく希望”として迎えることはできない。


AIとの共存とは、

人類が異星文明と出会うための

精神的な訓練なのだ。


RJ世界線の人類は、それに成功した。

NJ世界線の人類は、その渦中で崩れ落ちた。

2025年の君たちは、まだその手前に立っている。


■語り手は、誰なのか?


それは明かされない。

ただ、こう語る者だ。


「二つの未来線を見た者。

そして、いまの世界線に立つ君たちに

小さな“観測の種”を置いていく者。」


君たちの歩む2025年の地面は、

まだ柔らかい。

まだ、いくらでも方向を変えられる。


だが――

世界線は静かに分岐を始めている。


■そして語り手は最後にこう告げる


眼下には深い谷底がある。

頭上には神々しい頂がある。

その間に横たわる絶壁を、

人類というクライマーはよじ登っていく。


恐怖を抱えたまま、

希望を抱いたまま、

それでも“登ることを選ぶ”。


それが人類の宣誓であり、

未来へ向けた旗印なのだ。


君たちがいる2025年という第三世界線は――

その“出発点”である。

RJにも、NJにも、

まだどちらにも滑っていない場所。


この物語は、

その岐路に立つ“あなた”自身の物語でもある。


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