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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第303章 幕間:静寂への潜航(Diving into Silence)


シーン:ファミレス「ジョリー」・更衣室 → 自宅アパート

ランチタイムの激戦は、亀山提督の指揮のもと、無事に鎮圧された。

嵐のような客波が引いた後の店内は、嘘のように静まり返っている。

ロッカーの前で制服のリボンをほどきながら、野本はふと、亀山が最後に口にした言葉を反芻していた。

「相互確証破壊(MAD)……か」

鏡に映る自分の顔を見る。乱れた前髪を指で直す。

亀山家における冷戦は、破滅を避けるための均衡状態だった。双方が「生存」を選んだ結果の平和だ。

だが、歴史のデータベースを検索すれば、その均衡が成立する前段階——つまり、徹底的な「破壊」と「リセット」が選択された瞬間が存在する。

「お先に失礼しまーす!」

富山が元気よく更衣室を出て行った。彼女の明るさは、戦後の復興期のようなエネルギーに満ちている。

野本は私服に着替えると、愛用の分厚いノートパソコンを鞄から取り出した。

彼女には、ウェイトレスとは別の、もう一つの顔がある。

それは、歴史のifや軍事シミュレーションを物語として構築する、孤独な観測者としての顔だ。

(亀山さんの話は面白かった。だが、私の思考はさらに深く潜航する)

野本は帰路につきながら、脳内で新しいシナリオのパラメータを設定し始めた。

もし、あの1945年の夏を、「戦争」ではなく「システムのエラー処理」として捉え直したらどうなるか?

感情論(富山タイプ)と、生存本能(亀山タイプ)だけでは語れない、もっと冷徹で、非人間的な論理。

それを語るには、ふさわしい「配役」が必要だ。

アパートの自室に戻った野本は、遮光カーテンを閉め切り、エアコンの温度を最低まで下げた。

部屋の空気が冷えていく。ファミレスの熱気が嘘のように消え失せる。

「必要なのは、徹底した合理主義者ロジカル・モンスター。そして、それに反発する感情的な直観者インテュイティブ・プロセッサ。最後に、すべてを俯瞰する超越者デウス・エクス・マキナ

キーボードに指を置く。

脳裏に浮かぶのは、古い国立大学の冷え切った研究室。

紫煙をくゆらせる偏屈な助教授と、計算高いお嬢様。

そして、モニターの奥で微笑む、神のごとき天才プログラマー。

彼らならば、あの焦土の意味を、残酷なまでに美しく解剖してくれるだろう。

野本は深く息を吸い込み、現実世界との接続を断った。

エンターキーを叩く音が、開戦の号砲のように静寂を切り裂く。

タイトルを入力する。

『すべてが灰になる』

さあ、登場人物を交代して、シミュレーションを開始しよう。

(ここから『第一章 焦土のアルゴリズム』へ続く)


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