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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン2
340/2229

第105章 そうりゅう型潜水艦「そうりゅう」・潜航訓練(D-146)


艦内は冷たい金属臭と、循環空調の乾いた空気で満ちていた。

コンソール群の明かりがぼんやりと乗員の顔を照らし、エンジン音はほとんど聞こえない。

仁志兵曹長は、その静けさにまず違和感を覚えていた。


仁志

「……これで動いてるのか? 耳を澄ましても、何も聞こえねぇ」


森下

「動いてます。今はリチウム電池で静粛航行中ですから。

 現代の潜水艦は、敵に“存在を感じさせない”のが第一なんです」


仁志は頷きながらも、視線を周囲のモニターに移した。

そこにあるのは、音響探知の波形、航跡のシミュレーション、敵艦らしき信号の断片——

昭和の潜望鏡と海図だけの戦いとは、まるで違う世界だ。


森下

「この先に訓練目標の“敵潜”がいます。ソナーで捕捉してみてください」


仁志は促されるまま、音響オペレーター席に腰を下ろす。

耳に当てられたヘッドセットから、かすかなノイズが流れてきた。


仁志

「……波じゃねぇな。この低い唸り、スクリューだ」


森下(モニターを確認)

「正解です。データではまだ信号レベル2ですが、よく分かりましたね」


仁志

「昔は、波と風と鉄の響きを耳で区別できなきゃ務まらなかった。

 機械の数字より、体が先に気づくこともある」


その直後、訓練プログラムの“敵潜”が予想より早く回頭し、ソナーの探知範囲から外れかけた。


森下

「やばい、ロストします——」


仁志

「いや、こっちに寄ってくる。回頭音が近づいてる」


仁志の言葉どおり、数秒後には敵潜の信号が急激に増幅した。

森下は即座に艦長へ連絡を入れ、訓練シナリオの“撃沈判定”が下った。


森下

「……数値では分からないレベルでした。どうして分かったんです?」


仁志

「船はな、人間の癖みたいなもんを持ってる。

 こいつ(訓練目標)を作った奴が、回頭するときにスクリューの回転数をちょっと落としてる」


森下(笑いながら)

「それを“癖”って表現するのは、昭和の人らしいですね」


仁志は口元を緩めた。

「癖を読めば、海の中でも人の顔が見えるもんだ」

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