第104章 いずも型護衛艦「いずも」・混成運用訓練(D-144)
昼を過ぎ、甲板は訓練用のマーキングライトが点灯し始めていた。
今度の訓練は、有人SH-60K哨戒ヘリと無人VTOL機を同一飛行区画で運用する混成ミッションだ。
艦橋の航空管制室には、甲斐三佐と加藤兵曹長が並んで立ち、ガラス越しに甲板全体を見下ろしている。
甲斐三佐
「無人機は哨戒コースに入れて、有人ヘリは対潜ダミー攻撃。
両機が同じ旋回パターンに入る前にタイムスロットを切り替えます」
加藤兵曹長
「頭じゃ分かるが……こりゃ同じ空でやるには狭ぇな」
発艦信号が送られ、まず無人VTOL機が軽々と上昇し、定められた哨戒コースへ進む。
続いてSH-60Kがローターを回し、低い重低音を響かせて滑り出す。
加藤は双眼鏡を構え、風向と雲の動きをじっと観察していた。
その表情がわずかに固まる。
加藤
「三佐、前方の積雲、急に降りてきてる。風が巻き込むぞ」
甲斐(端末を確認)
「……気象センサーには変化なしですが?」
加藤
「センサーは風向塔の高さしか見ねぇだろ。甲板上じゃ横風が強くなってる」
その直後、無人機の姿勢制御がわずかに乱れた。
SH-60Kの進入ルートと交差する可能性が一瞬で高まる。
加藤(即座に)
「無人機、コースから外せ! 左舷側に退避!」
甲斐(無線)
「ドローン1、左舷退避! 有人機はパターンBに変更!」
指示から数秒で、無人機が旋回して回避、SH-60Kは進路を切り替えて着艦態勢に入る。
衝突まで十数秒という危険は、現場の判断で消えた。
甲斐
「……センサーが拾う前に判断されるのは、正直驚きますね」
加藤
「空と海は生き物だ。数字より先に、肌が教えてくれる」
SH-60Kが無事着艦し、ローターを止める音が冬の甲板に消えていった。
甲斐は管制卓のデータログを保存しながら、横目で加藤を見た。
現代のシステムと昭和の勘、その両方が揃って初めて守れる空がある——