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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第271章 「フランス侵攻 vs マレー電撃戦 ― “第二の成功”と決定的分岐」


◆《新寺子屋・多目的ホール。深夜1時過ぎ。》


第3章を終えた直後。

講堂の空気は、さっきよりも重力が増したような感覚に包まれていた。


スクリーンには二つの作戦名が並んでいる。


・Fall Gelb(フランス侵攻・1940)

・マレー作戦(1941〜42)


南條:

「前章は“開戦の極致”。

今回は“第二の成功”だ。

フランス侵攻とマレー電撃戦は、

日独が“絶対的な強さ”を世界に見せつけた瞬間だ。」


野本ごくり

「ここが……ピーク……?」


南條:

「そう。そしてここから運命が分岐する。」


◆1 ドイツ:


“陸戦史を塗り替えた”フランス侵攻の真相


スクリーンが北フランスの地図へ切り替わる。


南條:

「フランス侵攻は、軍事史の転換点だ。」


●① “不可能を可能にした”アルデンヌ突破


・アルデンヌは“戦車が通れない”と誰もが思っていた

・その“通れない場所”を突破する

・フランス軍の予備戦力は北に固定

・マジノ線は無力化

・英仏軍の指揮系統は完全麻痺


亀山:

「“常識”を裏返すことで勝ったんですね……」


南條:

「そう。

この作戦はまさに“思想の勝利”だった。」


●② 速度が戦術を上回った瞬間


南條:

「奇妙だが、

この時点でドイツ軍は“戦術”より“速度”が武器だった。」


・前進速度があまりに速く、

 英仏側が決断を下す前に戦線が消える

・“判断の遅い軍隊は存在しないのと同じ”という現実を証明した

・統合作戦(戦車・歩兵・砲兵・航空)の同期が完成していた


富山:

「“判断より速い戦争”って……怖い。」


南條:

「そして、フランス侵攻の成功は、

ヒトラーと軍部の“万能感”を決定的に強化する。」


●③ 実はこの時点で“危険な兆候”も生まれていた


南條:

「この作戦の直後から、ドイツ軍は変質していく。」


・ヒトラーが軍事判断に強く介入

・電撃戦が“最終形”だと誤解、改良されなくなる

・戦略爆撃能力軽視が固定

・ソ連への“短期決戦”幻想が強まる


重子:

「……成功が歯止めを失わせる。」


南條:

「その通り。

フランス侵攻の成功は、

“地獄への坂道”の入口でもあった。」


◆2 日本:


マレー電撃戦 ― “軽量機動戦の極北”に到達した軍隊


スクリーンがマレー半島へ切り替わり、

日本軍の“驚異の進撃ルート”が示される。


南條:

「ドイツが“重機動の極致”なら、

日本は“軽機動の極致”に到達した。」


●① “自転車歩兵+夜襲+浸透戦”の異常な機動力


・陸軍は戦車中心ではなく、

 自転車・徒歩・軽装備でジャングルを突破

・夜間の浸透を多用

・重装備の英軍は“対応できない戦場”に追い込まれた

・地形を味方にする“非対称機動戦”の成功


山田:

「え、自転車って……あの自転車……?」


南條:

「そう。

“静かで速くて補給がいらない”という、

ジャングル戦では最適解だった。」


●② 空軍の徹底奇襲:コタバル空襲


・真珠湾攻撃とほぼ同時刻

・英軍航空戦力が壊滅

・日本は制空権を瞬時に獲得

・マレー全域で航空優勢が続く


富山:

「真珠湾だけじゃなくて……

マレーでも“航空戦の勝利”を取ってたんだ……」


南條:

「南方作戦の成功は“航空優勢の維持”に尽きる。」


●③ 英国の“戦略錯誤”を完全に突いた


・英軍は“戦車主力・海上阻止”を重視

・ジャングル戦の訓練・装備が不十分

・日本軍の“浸透+夜襲”に対応できない

・指揮系統が縦割りで遅い

・制空権を奪われて情報が遮断


小宮部長:

「フランス侵攻で英仏軍が指揮の遅さで負けたように、

マレーでも同じ現象が……?」


南條:

「そう。

マレー電撃戦は“アジア版フランス侵攻”と言える。」


●④ 最大の成果:シンガポール陥落


・砲台が“海からの攻撃”に偏っていた

・日本軍の陸上進撃に対応できない

・英軍の士気が崩壊

・アジアの植民地支配が崩れ始める


重子:

「日本にとって、ここが“最高点”ですよね……?」


南條:

「軍事的には、間違いなく最高点だ。

だが同時に、

ここから“補給の死”が始まる。」


◆3 フランス侵攻とマレー電撃戦の“構造比較”


南條:

「さて、二つの作戦を比較しよう。」


スクリーンに並ぶ対比。


●共通点①:


“敵が予期しないルートを突破した”


・ドイツ → アルデンヌ

・日本 → ジャングルの浸透


●共通点②:


“敵の指揮速度より戦場の変化が速い”


・ドイツ → 司令部が情報収集より前に突破

・日本 → 英軍がジャングル戦に追いつけない


●共通点③:


“補給の限界を、成功が覆い隠した”


・ドイツ → フランスでは持続できたが、東部戦線で破綻

・日本 → マレーでは持続できたが、ビルマ・ガダルカナルで破綻


野本:

「成功の形が似てる……

でも“補給の壁”が後で来るんですね。」


南條:

「そう。

補給の限界は開戦直後の成功では見えにくい。」


●共通点④:


“成功が戦略判断を硬直させた”


小宮部長:

「成功って……本当に曲者ですね……。」


南條:

「日独ともに、成功した作戦を“普遍の戦法”だと錯覚した。

その結果――

より広大な戦域へ同じ手法で挑み、挫折した。」


◆4 “第二の成功”のあと、運命が完全に分岐する理由


富山:

「でも、フランス侵攻とマレー電撃戦って、

どっちも“勝ちすぎた”のに……

どうしてその後の道がこんなに違うんですか?」


南條:

「理由は三つある。」


南條が指を三本立てる。


●理由①:


相手の反撃能力の差(英米 vs ソ連 vs 米国)


・ドイツが最終的に相手にするのは“世界最大の陸軍国家=ソ連”

・日本が相手にするのは“世界最大の産業国家=アメリカ”


南條:

「どちらも、

“本当に戦ってはいけない相手”だった。」


●理由②:


補給線の伸び方が“指数関数的”に増える


・ドイツ → フランスの成功で“東へ”向かう

・日本 → マレーの成功で“さらに南へ・東へ”向かう


南條:

「この段階で、二国とも“勝ちすぎた”んだ。」


亀山:

「勝つと……戦線が伸びて、維持できなくなる……?」


南條:

「その通り。」


●理由③:


政治指導部が成功で“現実認識”を失う


・ヒトラー → 将軍の意見を無視し始める

・日本大本営 → 陸海軍の対立が激化し、統合作戦が不可能に


重子:

「成功が国を壊すって……残酷。」


南條:

「戦争の特質だ。

どんな軍隊も、自分の成功パターンから離れられない。」


◆5 章末まとめ:


成功は“未来の戦争の形”を決めるが、同時に“国の限界”も決める


スクリーンに最終結論が映る。


「フランス侵攻とマレー電撃戦は、

 二国の“最高点”であり、

 同時に“破局へつながる分岐点”だった。」


●ドイツ:

 フランス侵攻の成功 → “ソ連も同じだ”と錯覚

 → バルバロッサの悲劇へ


●日本:

 マレー電撃戦の成功 → “航空優勢を維持できる”と誤解

 → ガダルカナルの地獄へ



照明が薄く落ち、

メンバーはしばらく無言でスクリーンを見つめていた。


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