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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第265章 〜暇つぶしサークル “特別講義・戦艦ビスマルク回”〜




◆《会話劇:ビスマルク建造から撃沈まで》



【部室:夕方。机にはお菓子と歴史資料。雨音が静かに響いている】


野本(資料束を慎重に並べながら):

「……じゃあ、今日は言った通り、戦艦ビスマルクの建造から沈没まで、全部通して話す回にします。

 ちゃんと史実に沿って……真面目に。」


富山(コーヒー飲みながら):

「いや、野本さん、あなたが“真面目に”って言うと逆に不安なんだけど……。

 でもビスマルクは興味ある。映画とかより、本当の経緯が知りたい。」


亀山(腕組みしながら):

「私は名前だけ知ってるわ。すごく大きい戦艦でしょ? フッドを沈めたやつ。」


小宮部長(眼鏡を押し上げながら):

「せっかくなら、建造背景から撃沈まで、政治・技術・海戦の流れ全部押さえましょう。

 “戦艦という巨大兵器がどんなロジックで生まれ、どう死んだか”を理解するのは価値あるわ。」


橋本副部長(ノートパソコンを構えつつ):

「僕は図を出す係をやります。

 ビスマルクの断面図も作ってきたので、話の途中でスクリーンに映します。」


重子(読書していたが顔を上げて):

「戦艦…って、実際に乗っていた兵士の生活とかはどうだったんですか?

 そこも気になります。」


山田(真剣な表情で):

「俺は“追撃戦の心理”に興味ある。

 片方は逃げ、片方は追う。

 海での“逃走”って、陸と全然違うはずだから。」


野本:

「……じゃあ、始めますね。」


◆【第1段階:ビスマルク建造の背景】


野本:

「まず、ビスマルクが作られた理由だけど……

 一言で言うと “ドイツ海軍の自尊心と国威の象徴” だったんです。」


富山:

「やっぱりそうなんだ……。

 第二次大戦直前って、ドイツは海軍より陸軍中心でしょ?

 そんな国がなんで巨大戦艦?」


小宮部長:

「そこなのよ。陸軍国家であるドイツが建造した巨大戦艦という“矛盾”。

 ヒトラー本人は海軍に強い情念はなかったけど、

 レーダー提督は“大洋艦隊”を夢見て、威信を賭けて大型戦艦建造を推した。」


橋本:

「スクリーンに出しますね……建造開始は1936年。

 総排水量5万トン級。

 装甲は“防御重点型”、特に弾薬庫周辺は非常に厚い。」


亀山:

「船体の中、こんなに区分されてるのね……。

 どの隔壁も“沈みにくい”ように作ってあるってこと?」


橋本:

「はい。ところが……後で分かるけど、これが逆に“弱点”にもなりました。」


野本:

「ビスマルクは“殴られ強い”ように設計されて、外側はすごく頑丈だったんですけど、

 中の骨組みや隔壁の耐久性がそこまで追いついていなかった。

 だから後の大量浸水に繋がってしまうんです。」


重子:

「外は強いけど、中が壊れる……人間で言ったら、皮膚は厚いけど骨が弱い感じ?」


野本:

「そういう比喩、すごく近いです!」


山田:

「最初の時点で、もう“宿命”があったんだな……。」


◆【第2段階:出撃とフッド撃沈】


小宮部長:

「では次。“ライン演習作戦”。

 これはビスマルクと重巡プリンツ・オイゲンが北大西洋に抜けて、

 イギリスの補給線を攻撃する計画ね。」


富山:

「で、イギリスが慌てて追いかけるんだ。」


野本:

「その追撃の中で起きたのが――

 史上最も衝撃的な“瞬間撃沈”の一つ:フッド戦艦の爆沈 ですね。」


亀山:

「フッドって“英国の誇り”って呼ばれた船よね?」


橋本:

「はい。

 そのフッドがビスマルクの一撃で爆沈した。

 原因はフッドの甲板装甲が薄く、

 ビスマルクの重砲の弾道と角度が完全一致してしまったためです。」


富山(コーヒーを置いて沈黙):

「……映画のシーンじゃなくて、本当にあったんだよね……。

 数千人が一瞬で。」


山田:

「この瞬間、イギリス側の追撃の“心理”は完全に切り替わった。

 “戦略任務”から“復讐戦”へ。」


重子:

「誰かを失うと、理由が変わってしまう……。」


野本:

「ビスマルクの運命は、この瞬間に決まったと言っても過言じゃありません。」


◆【第3段階:孤立と舵破壊】


小宮部長:

「フッドを沈めた直後、ビスマルクはプリンツ・オイゲンと分かれて単艦行動。

 それがまずい選択だったのよね。」


野本:

「はい。燃料漏れと浸水で、ドイツ本国のフランス寄港を急ぐ必要があった。

 それで味方との連携が完全に消えた。」


富山:

「そこで空母アーク・ロイヤルのソードフィッシュ隊が来る。」


亀山:

「布張りの旧式雷撃機よね? そんな飛行機が巨大戦艦に……」


橋本(苦笑):

「ええ、これがまた歴史の皮肉でして……

 旧式すぎてビスマルクのレーダー管制射撃がまともに反応できなかったんです。

 速度が遅すぎて“ノイズ”扱いになってしまった。」


野本:

「そして撃ち込まれた魚雷の一本が――

 舵の下部に“偶然”正確に命中する。

 これが全てを終わらせました。」


山田:

「舵が死んだら、戦艦ってどうなる?」


野本:

「巨大な船は舵がなければ方向転換できません。

 ビスマルクは“右旋回固定”という最悪の症状に陥り、

 イギリス艦隊に追いつかれるのを待つだけの存在になりました。」


重子:

「逃げられない……

 その状況、胸が苦しくなりますね……。」


◆【第4段階:最終砲撃戦と沈没】


小宮部長:

「翌日、英国の戦艦“キング・ジョージ5世”と“ロドニー”がビスマルクに追いつく。

 ここからは一方的な砲撃です。」


橋本:

「ロドニーは前部砲塔を使って“射程外からの砲撃”を開始し、

 砲撃はビスマルクの上部構造物を次々に破壊した。

 主砲のほとんどが沈黙し、やがて指揮所も壊滅。」


野本:

「それでもビスマルクは沈まない。

 外殻が強すぎて、砲撃だけでは沈まないんです。

 だから内部はボロボロなのに浮いているという異様な状態に……。」


亀山:

「内部から崩れてるのに……? そんなことってあるの……?」


橋本:

「深海探査で分かったことですが、

 ビスマルクは外側がほぼ原形のまま海底に沈んでいました。

 でも内部は完全に“破砕”。

 構造的に支えられずゆっくり沈んだ。」


富山(息を呑む):

「ゆっくり沈んでいく戦艦って……どんな……」


野本:

「ビスマルクにとっては、“死体がまだ形を保っている”ような状態です。

 心臓と血管は壊れたのに、皮膚だけ生きているような……。」


重子(目を伏せる):

「そんな……

 それでも、乗っている人は、最後までその船にいるんですもんね。」


山田:

「最後、イギリス艦は救助できなかったんだろ?

 Uボートの危険で。」


野本:

「はい。

 沈没後に生存していた数百人は、

 110名だけが救助され、残りは海に消えました。」


静寂。


富山:

「……なんだろう。

 戦艦の名前って有名だけど、

 そこにこんな重い現実があったんだね。」


◆【第5段階:歴史の“結論”】


小宮部長:

「ここまで見てはっきりするのは――

 ビスマルクは“巨大戦艦の終わり”そのものだったということ。」


橋本:

「舵一枚で全てが終わる。

 どれだけ装甲を厚くしても意味がない。

 航空機と情報戦が海戦を支配する。

 これは現代海軍の基本思想です。」


野本:

「ビスマルクは“技術の限界”と“戦略のミス”と“偶然の雷撃”が重なって沈んだ艦。

 でも同時に、

 人間が作り、人間が乗り、人間ごと沈んだ艦 なんですよね。」


亀山(静かに):

「……なんか、急にすごく現実的に聞こえてきたわ。

 船って、兵器だけど、生活の場でもあるから……。」


重子:

「生き残った人の証言、残っているんですか?」


野本:

「はい。

 “船がゆっくり壊れる音”を聞いたって証言が多いんです。

 金属が軋む音、蒸気の音、水が入り込む音……

 いろんな音が混じった“沈没の音”。」


山田:

「戦争って、武器や戦略の話に見えるけど、

 結局、人間の話だよな……。」


◆【終幕:夕暮れの部室】


外の雨が弱まり、

窓の外が少しだけ明るくなる。


富山:

「……今日は重かったね。」


亀山:

「でも、知らなきゃいけないことだと思う。

 戦艦が沈むっていう事実の裏に、

 どれだけの人の命があるか。」


小宮部長:

「兵器を“数字や図で語る”だけでは足りない。

 人間の声を含めて初めて、歴史は意味を持つ。」


橋本:

「ビスマルクは沈んでも、

 海戦史ではずっと中心にいる理由がよく分かりましたね。」


重子:

「……その人たちの声、海は覚えているのかな。」


野本:

「覚えてると思います。

 海底に横たわるあの船は、

 きっと、まだ“物語”の続きを語ろうとしてるから。」


山田:

「ビスマルク……

 思ってた以上に“人間的な悲劇”だった。」


野本(深く息をつきながら):

「……次は、プリンツ・オイゲンの話もしたいですね。

 あっちはあっちで、戦後の運命がまた……。」


全員、うなずく。

部室に静かな余韻だけが残った。


◆《完》


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