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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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3352/3531

第250章 「ビスマルク艦内:緊急整備“最終ライン”」



◆第6章・第14節(6-14)



――霧がわずかに後退しつつある頃。

ビスマルク内部の整備区画では、

かつてないほどの緊張が走っていた。


原因は、

機関振動の第三段階突入と、

 魚雷回避に必要な“高レスポンス回頭”への備え

が同時に求められていることだった。


機関長アーレンス少佐が、

オイルまみれの手で

軸受温度の記録を確認する。


「……上昇が止まらん。

 第三主機の温度、基準+14%。」


副機関士が声を潜めて言う。


「少佐、

 回頭に備えて出力偏荷重を是正しなければ……

 舵の応答が落ちます。」


アーレンスは短く言い放った。


「分かっている。

 だが――舵が応えたところで、

 主軸が焼き付けば全て終わりだ。」


整備員たちは

それぞれの工具と持ち場に散っていく。

蒸気の匂い、オイルの焦げた臭気、

鋼板と鋼材の擦れる音――

それらが交錯し、

艦内は“生き物の臓腑”のように脈動していた。



●“回転制御班”の焦燥


魚雷回避で最も重要となるのは、

舵角+主軸出力変化の同期だ。


回転制御班のベック軍曹は、

複雑な計器群を前に

何度も深呼吸を繰り返していた。


部下の兵士が震え声で言う。


「軍曹、

 もし敵雷撃隊が来たら……

 いったい何回、

 全力急転をやる必要があるんです?」


ベックは計器から目を離さず言った。


「最低五回。

 多ければ十回。

 そしてそのたびに――

 この軸系が限界に近づく。」


兵士:

「……五回で限界、なんですか?」


「本来なら五回も許容していい設計じゃない。

 だが現状は燃料タンクに偏りがある。

 艦全体の重心が“正しくない”。

 だから急転するたびに、

 主軸と舵機に想定以上の負荷がかかる。」


兵士は真っ青になった。



●前方弾薬庫:主砲戦の準備も同時進行


前方弾薬庫では、

砲術兵たちが黙々と

装薬と砲弾のチェックを続けていた。


古参砲兵ハインリッヒは

若い砲兵に低く言う。


「魚雷が来たら回頭する。

 回頭したら姿勢が崩れる。

 姿勢が崩れれば、

 主砲射撃の初弾精度は落ちる。」


若い砲兵:

「じゃあ……どうすればいいんです?」


「砲は撃つ。

 精度が落ちようと、撃つ。

 撃てば敵が怯む。

 怯めば、魚雷の投下精度も落ちる。」


その論理は乱暴だが、

現実的だった。



●リンデマン艦長の静かな命令


艦橋から通信が入る。


「整備区画へ。

 霧が開きつつある。

 敵雷撃隊接近の可能性に備えよ。

 全機関、即応状態に。」


アーレンス少佐は顔を上げた。


(来る……

 いよいよ“本番”が来る。)


機関室の奥で、

巨大な鋼鉄の軸が唸りを上げた。


それはまるで

戦艦ビスマルク自身が

迫りくる嵐に備えて

“覚悟を決めた”かのようだった。



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