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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第246章 「ビスマルク艦橋:“霧の外”から迫る“気配”」




◆第6章・第10節(6-10)



――夕刻前。

霧は依然として濃く、

海面と空の境界は完全に失われていた。

だがその白の奥に、

“もうひとつの空気の流れ”が存在していた。


ビスマルク艦橋では

副長シュルツが耳を澄ませていた。


「……聞こえるか?」


航海長フェッツナー大尉:

「なにがです?」


シュルツ副長は、

海の奥底から湧き上がるような

微弱な断続音に集中した。


「……プロペラ音だ。

 遠いが、“航空機のそれ”だ。」


艦橋に緊張が走る。


無線担当士官:

「敵機かどうかは?」


副長:

「この霧で味方の航空機など来るはずがない。

 英海軍航空隊だろう。」


しかし――奇妙だった。

音が近づかない。

遠ざかりもしない。

まるで霧の縁を“旋回”しているように聞こえる。


航海長:

「こちらの正確な位置を掴んでいない……

 あるいは、すでに失ったのか。」


艦長リンデマンは

静かに唇を結んだ。


「航空隊は……

 我々を探しているが、見えていない。

 だが、探しているという事実そのものが脅威だ。」



●“気配”は続く


霧の向こうから来る振動音は、

時折消え、

そしてまた現れた。


それは敵が索敵パターンを変えながら

ビスマルクの進路を“推測”している証拠だった。


測距員ホルスト:

「これは……完全に“円索敵”です。

 同一地点を中心に、

 半径を変えて旋回している。」


副長:

「つまり敵は――

 我々を見失った可能性を認めている。

 だから探索範囲を広げている。」


(良い兆候……のはずだ。)

艦橋にいた誰もが、

そう思った。

しかし同時に、

胸の奥で別の不安が滲んだ。


(霧が晴れた瞬間に捕まるのでは?)


それほどまでに、

敵機の“存在だけの圧力”は凄まじかった。



●艦長リンデマンの覚悟


艦長は海図に手を置き、

進路を見据えた。


「機関区に伝えろ。

 速度は維持。

 多少の負荷は……覚悟の上だ。」


通信士が戸惑う。


「しかし、機関長は

 軸受温度が危険領域と……」


リンデマン:

「止まれば死ぬ。

 動けば……生き残る可能性がある。」


副長も静かに言った。


「敵は見えないが、

 “探している”という事実だけで

 我々は走るしかない。」


艦橋は沈黙した。


霧の向こうに、敵の姿はない。

だが、気配はある。

音も、影も、姿もないのに、

「追われている」ことだけが確信できる。


これは

**視界ゼロの“心理戦”**だった。


ビスマルクはただ進む。

霧を裂き、

荒れつつある海に身を投げる。


その背後に、

英国海軍の“目に見えない網”が

確実に近づきつつあった。



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