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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第242章 「英海軍インテリジェンス:“数学的追跡”の開始」



◆第6章・第6節(6-6)




――ロンドン、海軍省・作戦室。

霧による索敵網の崩壊を受け、

英国海軍は“第三の眼”――

数学的推定航路 を使うしかなくなっていた。


参謀長サー・ジョン・トーヴィーは

海図の前に立ち、静かに言った。


「……見失った。

 ならば、こちらが“どこへ向かうべきか”を推測する。」


作戦参謀ウィリアム・マシューズ中佐が、

等時間曲線(等時線)と

風向・海流・霧帯の分布を組み合わせた

複雑な計算を机に広げる。


マシューズ:

「速度を27ノット、

 燃料消費を考慮した場合は25ノット。

 ビスマルクが“帰港を急ぐ”と仮定すれば――

 進路は必ず南東寄りに偏る。」


通信参謀:

「つまり、あの霧はビスマルクに

 “帰る理由”を与えたということか?」


マシューズ:

「霧は、敵を隠す。

 しかし同時に“進むべき方向”も制約する。

 霧の縁を避けたいなら、

 最短距離でフランスを目指すはずだ。」


トーヴィーは頷いた。


「ビスマルクは、

 霧の中をまっすぐ帰る。

 リンデマンはそういう男だ。」


参謀の一人が反論した。


「しかし、敵は我々を欺くために

 大きく西へ迂回する可能性も――」


トーヴィーは海図を指で叩いた。


「無い。

 あの巨体で大回りをすれば、

 燃料は持たん。

 ビスマルクは負傷した獣だ。

 傷を抱えたまま戦場の中央へ戻る真似はしない。」


作戦室が静まり返る。


推定進路は“南東”。

これは、最も単純で、

最も危険な答えだった。



●“数学戦争”の始まり


英海軍参謀は、

ビスマルクの航跡を

速度 × 時間 × 霧の分布 × 敵の心理

という多変数の方程式として捉え始めていた。


レーダーが沈黙し、

空の偵察も不可能な中では、

人間の思考と計算だけが武器になる。


その時、通信室から声が上がる。


通信士:

「シェフィールドから状況通達。

 『戦艦に接触できず』とのこと!」


トーヴィーは海図を見つめた。


「……ならば、“計算で追う”しかない。」


霧の中で姿を消した戦艦を、

英国は数学で追跡し始めた。


これは“電子戦”でも“空戦”でもない。

戦略参謀同士の頭脳の殴り合いだった。



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