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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第241章 「プリンツ・オイゲン艦橋:艦長ブリンクマンの“不安な計算”」



◆第6章・第5節(6-5)



――霧の白壁の中、

ビスマルクの後方2,000メートル。

重巡プリンツ・オイゲンの艦橋では、

艦長ヘルムート・ブリンクマン大佐が

双眼鏡を下ろした。


もちろん、何も見えない。

見えるはずがない。

霧は完全に海面へ貼りつき、

先行する巨大戦艦の影すら飲み込んでいた。


副長エッカーマン少佐が言った。


「距離は保持しています。

 ただ……視界ゼロでは“距離”も感覚です。」


航海長:

「水音の反射、スクリューの低周波、

 それらの微細変化から“推定距離”を割り出しているに過ぎません。」


ブリンクマンは静かに答えた。


「……ビスマルクを見失うわけにはいかん。

 我々は随伴艦だ。

 単独になれば、即座に敵巡洋艦の餌だ。」


言葉通りだった。

プリンツ・オイゲンの装甲・火力は優れているが、

戦艦同士の殴り合いに巻き込まれればひとたまりもない。

自らの“立ち位置”を理解しているだけに、

ブリンクマンは内心焦りを抱えていた。



●“音の海図”


霧の中、彼らの最大の情報源は“音”だった。

特にビスマルクのスクリュー音は特徴的で、

タービン調整の癖が周波数に現れる。


音響測定士シュライバー曹長は

高感度ヘッドホンを外し、報告した。


「……艦長、ビスマルクのスクリュー音が

 わずかに上がっています。

 速度を増している可能性があります。」


副長:

「燃料漏れを抱えながら速度を上げる……

 焦っているのか、

 それとも“機会を掴んだ”のか。」


航海長は海図に鉛筆を走らせ、

霧中の誤差を含めた“揺らぎ帯”を示した。


「もしビスマルクが速度を上げているなら、

 敵が完全に見失ったと判断した可能性があります。」


艦橋の空気が変わった。

それは希望のようでいて、

同時に不安でもあった。



●ブリンクマンの“軍人の直感”


ブリンクマンは、

霧の向こうにいるはずの巨大戦艦を思い浮かべた。


(リンデマンは冒険をしない男だ。

 彼が速度を上げたなら――

 必ず何か根拠がある。)


だが、もう一つ

こっそり胸に浮かんだ可能性があった。


(あるいは……

 ビスマルクの内部で限界が近づいているのか?)


燃料タンク損傷、機関振動、

揺動の不規則化――

それらの「不安の匂い」は

随伴艦にまで微かに伝わってきていた。


霧に包まれた海は静かだったが、

ブリンクマンの胸の中には

二つの矛盾した予感が渦巻いていた。


“逃げ切れる”予感と、

 “もうすぐ破局が来る”予感。


そのどちらが正しいかを

示す手がかりは――

霧が晴れるまで、誰にも掴めなかった。



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