第99章 横須賀第3ドック・大和炉室改造現場(D-123)
炉室の撤去作業が半分を終え、軸系点検の班が艦底側の狭い区画で作業を進めていた。
照明の下、古い推進軸が鈍い光を放ち、油の匂いが漂っている。
機関科整備員(民間造船所)
「黒川さん、ちょっと来てもらえますか……軸受ハウジングに、クラックがあります」
黒川技官(防衛装備庁)
「どの位置だ?」
整備員
「二番軸、主減速機寄り。肉眼でもわかるレベルです」
古賀機関長(大和乗員)が懐中ライトを受け取り、軸受部を覗き込む。
金属表面に、蜘蛛の巣のような細い亀裂が走っていた。
古賀
「……これは長年の疲労じゃねぇな。沖縄特攻のとき、被弾衝撃で軸が歪んだ可能性が高い」
黒川
「現代規格では、この状態での本格運用は危険です。最大出力を掛けたら亀裂が進行します」
安西(民間造船所主任)
「溶接補修はできますが、軸を一度抜かないと完全な処置はできません。
ただし……抜いて戻すとなると、最低でも18日はかかります」
炉室奥の空気が重くなった。
残り127日のうち、18日が消える計算だ。
古賀
「おい黒川、この艦はあと5か月で海に出るんだろう。出力制限してでも、この軸を残す手はないのか」
黒川
「……制限すれば軸の寿命は延びますが、速力は24ノットが限界。
敵艦隊の包囲を振り切れなくなる」
安西
「ただ、軸受の材質を現代の高張力鋼に置き換えれば、工期短縮できる可能性はあります。
既製品を改造して使えば、10日以内に収まるかもしれません」
黒川は短く頷き、即決した。
「安西さん、それで行きましょう。必要な図面と材質仕様は今夜中に送ります。
古賀機関長、現場で可能な限り旧軸の負担軽減策をお願いします」
古賀はわずかに口元を歪めた。
「……現代の鋼と俺らの知恵、どっちが持つか試してみようじゃないか」
その瞬間、現場の奥で再び火花が散り、鉄と油の匂いが炉室に充満した。
時間は刻一刻と減っていくが、艦は確実に“戦える姿”へ近づいていた。