第232章 第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》 14/15
デンマーク海峡海戦後、
ビスマルクは実際に一時、
英海軍の包囲網から姿を消した。
濃霧・暴風・レーダーノイズ・海流の偏差――
自然と機械と人間の限界が折り重なり、
北大西洋最大の「戦艦捜索劇」の核心が生まれた。
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◆第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》
14/15 ― “ビスマルク消失:北大西洋の深い霧の中へ” ―
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【312:午前6時47分・英巡洋艦サフォーク ― “レーダー消失から1分後”】
レーダー室では、
士官と技術兵が必死で調整している。
レーダー士:
「波形ノイズ多発……!
再捕捉できません!!」
技術兵:
「波高5m以上、反射が飛んでいる!
周波数帯が海面散乱に飲まれてる!!」
副長:
「出力を上げろ!」
レーダー士:
「出力を上げれば……
もっとノイズが増えます!!」
艦長は
沈黙の中で結論を出した。
艦長:
「視覚探知に切り替える。
霧の“切れ間”を全員で探せ。」
サフォークは、
再び“眼”に頼る20世紀前半の
アナログな戦争へ戻った。
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【313:午前6時48分・ビスマルク艦橋 ― “濃霧の中の静止”】
見張り員:
「敵影……皆無です。」
航海長:
「霧でレーダー反射が乱れています。
今なら……本当に隠れられる。」
副長(低く):
「霧が……味方をしている……?」
艦長リンデマン:
「味方ではない。
奴らも霧で探しているのだ。」
しかし彼も理解していた。
この霧は、
ビスマルクの最後の贈り物 かもしれないと。
航海長:
「針路はそのまま、南東で?」
艦長:
「いいや。
東寄りに転舵する。
追撃網の“予測線”をずらす。」
副長が息を呑む。
リンデマンは追撃網そのものを“欺く”ための
進路変更を行ったのだ。
極めて冷静で、理知的な判断だった。
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【314:午前6時49分・英本国艦隊(キング・ジョージ5世) ― “進路選択のジレンマ”】
参謀:
「サフォークが接触を失いました!」
トーヴィー大将:
「……どれくらいだ?」
副官:
「1分以上。
この霧では再捕捉が難しい可能性があります!」
作戦参謀:
「敵進路は大きく分けて2つ。
南――フランス本土へ。
東――アイスランド方向へ戻る可能性も。」
副官:
「どちらを……追いますか?」
大将は
地図に片手を置き、
迷わず言った。
「南だ。
フランスへ行かなければ、
あの怪物に未来はない。」
参謀:
「しかし、賭けになります……!」
トーヴィー:
「海戦とはもともと賭けだ。
だが我々は負けられん。」
この判断が
後の“ビスマルク発見”につながる。
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【315:午前6時50分・北大西洋・嵐の中(俯瞰視点)】
ここで
北大西洋の地形と天候を“戦術地図”として描く。
•ビスマルク:霧の中で東寄り進路変更
•英巡洋艦サフォーク/ノーフォーク:霧に阻まれ捜索停滞
•POW:後方で距離維持
•本国艦隊:南方から高速で接近
•英空母隊:霧に阻まれ出撃不能
•カタリナ飛行艇:上空からの視界喪失
この瞬間だけ、
ビスマルクを探しているのは“海と風”だけ だった。
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【316:午前6時51分・英空軍カタリナ飛行艇 ― “空の焦り”】
パイロット:
「雲層がさらに下がってきてる……
高度500mすら維持できない!!」
副操縦士:
「海面との距離が近すぎる!!
あれだけの波だと、
一瞬で叩きつけられるぞ!!」
レーダー員:
「ノイズだらけで……
こっちも捉えられない……!」
パイロット:
「くそっ……!
空からの“目”が死んでる!!」
霧と雲低が
空軍を無力化していった。
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【317:午前6時52分・ビスマルク・機関部 ― “死の計算”】
主任が計算表を叩きつける。
主任:
「このペースでは……
フランス到達前に燃料が尽きます!!」
技術兵:
「速度を落とせば航続距離は延びるが……
追撃が迫る!!」
主任は
顔を歪めて呟いた。
「生き延びるための速度が、
死を早める速度になる……」
これが、
“損傷した戦艦の逃走”の本質だった。
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【318:午前6時53分・英巡洋艦ノーフォーク ― “海流を読む”】
ノーフォーク艦長:
「奴は巨大だ。
海流に大きく流される。
デンマーク海峡から抜けた後の海流は北西方向……
つまり、奴は“自然に”東へ押し戻されやすい。」
副長:
「東へ?
フランスから離れる方向ですが……?」
艦長:
「霧の中で進路変更した可能性がある。
ビスマルクは愚かではない。」
この推測は正しかった。
だが、この時点で英側には
“確証”がなかった。
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【319:午前6時54分・英本国艦隊旗艦(KGV) ― “焦燥と直感”】
参謀:
「敵消失から7分……
このままでは完全にロストします!」
副官:
「距離が離れすぎれば、
我々が間に合う前にフランスへ……」
トーヴィー大将は
海図を睨んだまま、
低く言った。
「霧は“敵の味方”ではない。
霧は“海の法則”の一部だ。
法則は裏切らない。」
参謀:
「つまり……?」
トーヴィー:
「ビスマルクは南へ向かう“しかない”。」
これは、
軍人である前に、
“海の男”としての直感でもあった。
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【320:午前6時55分・ビスマルク艦橋 ― “静かすぎる海”】
霧の中で
振動だけが響く。
副長:
「……追ってくる気配がない。」
航海長:
「いえ、追っています。
こちらが見えないだけです。」
艦長リンデマンは
海図を見ながら呟いた。
「この静けさが……
嵐の中心か、死の前触れか。」
彼はわかっていた。
追撃が遅れても、止まったわけではない。
北大西洋は広すぎるが、
英国の憎しみはそれ以上に広かった。
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【321:節末(14/15) ― “戦艦が海から消えた1時間”】
午前6時55分。
ビスマルクはついに
英海軍の追撃網から “姿を消した”。
これは歴史上実際に存在した
大西洋最大の“捜索空白”。
▼ 英側
•サフォーク/ノーフォークのレーダー接触消失
•空母航空隊は霧で発艦不能
•カタリナ飛行艇も雲低で無力化
•本国艦隊は進路決定を迫られる
•すべてが推測と賭けに変わりつつある
▼ 独側
•ビスマルクは霧の恩恵を受けつつ進路変更
•だが燃料漏出は悪化
•修理はほぼ不可能
•生還航路そのものが“遠い絶望”
•「霧に隠れた死体」のように静かに走る
続けますか?




