第230章 第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》 12/15
12/15 ― “北大西洋追撃網:ビスマルク包囲戦の序曲” ―
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【292:午前6時31分・英本国艦隊司令部 ― “全艦出動”】
副官が慌ただしく駆け込む。
副官:
「司令、大本営から承認――
“追撃作戦は国家総力戦として扱う”とのことです!」
司令官トーヴィー大将は頷き、
作戦参謀たちに向き直る。
トーヴィー:
「キング・ジョージ5世とロドニー、即時出撃。
アークロイヤル、空母隊は南方から挟撃。
北大西洋で“巨大な網”を作る。」
参謀:
「ビスマルクの進路は……?」
トーヴィー:
「南だ。
フランス・サンナゼールかブレスト。
その途中で必ず捕まえる。」
他の参謀が地図に線を引く。
•デンマーク海峡
•アイスランド南方
•北大西洋中央
•ビスケー湾
•フランス西岸
このすべてに英艦隊が配置される。
“逃げ場はない”網である。
トーヴィーは静かに付け加えた。
「フッドの仇を討つのではない。
あれは国家への挑戦だ。」
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【293:午前6時32分・ビスマルク艦橋 ― “逃走の開始”】
航海長:
「敵戦艦POW、完全に距離を開きました。
あと10分で砲戦圏外に出ます。」
副長:
「後続の巡洋艦も……まだ遠い。」
艦長リンデマン:
「速度は?」
機関長:
「全速なら30ノット維持できますが……
燃料漏出が――」
艦長:
「分かっている。
27ノットで南へ向かえ。」
副長:
「“フランスへ帰る”わけですね。」
艦長は頷きながら言った。
「これは撤退ではない。
生還戦だ。」
だが艦内には誰も気づいている。
――この航海はすでに“死への航路”であることに。
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【294:午前6時33分・英巡洋艦サフォーク艦橋 ― “影のように張り付く”】
副長:
「敵戦艦、進路を南東へ変更!
速度は……27ノット前後!」
サフォーク艦長:
「よし。
我々は20kmの距離を維持する。
決して見失うな。」
見張り員:
「霧が濃くなります!
レーダーに頼るべきかと!」
艦長:
「レーダーと目視、両方だ。
海は裏切る。」
副長(苦笑):
「乗員も裏切る時がありますが……
海ほどではありませんな。」
艦長:
「人間は恐怖で動けなくなる。
海は容赦なく殺しに来る。」
北大西洋の嵐の匂いが
艦橋に入り込んできた。
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【295:午前6時33分30秒・POW艦橋 ― “戦場を去る者の背中”】
煙幕の向こうで
ビスマルクの砲火は遠ざかり、
波音が大きくなる。
副長:
「……本当に、これでいいのでしょうか?」
艦長リーチ:
「ああ。
英海軍は“死ぬな”とは言わない。
だが“無駄死にするな”とは言う。」
砲術長:
「主砲一門だけでも射程を監視できます。」
艦長:
「それで十分だ。
我々は位置を知らせる。
その後の仕事は――」
艦内スピーカーを通じて
リーチは静かに告げた。
「ビスマルクは、英国全体が相手をする。」
乗員たちの胸の奥で、
恐怖ではなく“責務”が燃え始めた。
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【296:午前6時34分・英空母アーク・ロイヤル ― “雷撃隊の完全武装”】
格納庫の空気は油と金属臭で重い。
ソードフィッシュ雷撃機のパイロットたちは
整備士に囲まれながら武装を確認する。
整備士:
「爆弾、魚雷、機銃……すべて実装済み!!
燃料補給完了!!」
雷撃隊長:
「全機、滑走甲板へ!
北大西洋へ出るぞ!!」
若い整備士:
「本当に……あんな巨艦を止められるんですか?」
隊長は手袋を締めながら答えた。
「俺たちは“止めるために飛ぶ”。
それ以上の理由は要らん。」
(史実ではこの雷撃隊が後にビスマルクの舵を破壊する)
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【297:午前6時35分・ビスマルク・機関室 ― “悲鳴をあげる内部”】
燃料タンク区画を必死に塞ごうと
技術兵たちが走りまわっている。
技術兵:
「隔壁が振動で歪んでる!
溶接が追いつかん!!」
責任者:
「ポンプで汲み上げろ!
どこへでもいい、移せ!!
漏れを止めろ!!」
若い兵士:
「止まりません!
どんどん海へ流れていきます!!」
責任者は歯を噛み締めて叫ぶ。
「このままじゃ……帰れない!!」
その声は、
戦艦ビスマルクの死の予兆そのものだった。
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【298:午前6時36分 英重巡ノーフォーク ― “レーダーの目”】
レーダー士:
「接触を維持……距離22km……
ビスマルクは南東進!!」
艦長:
「よし。
我々は“遠距離からの目”だ。」
副長:
「英本国艦隊が包囲網を形成しつつあります。
あと12時間で――」
艦長:
「追いつく。」
レーダー波の淡い“ツッツッツ……”という音が
静かな殺意のように艦橋を満たしていた。
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【299:午前6時36分30秒・ルッツェンス旗艦(無線室) ― “絶望の計算”】
参謀が紙面に計算を書き込む。
参謀:
「燃料漏出量から推定すると……
ビスマルクの最大航続距離は“1800km以下”。
つまり――フランスに辿り着けるかどうか……」
ルッツェンス:
「航空攻撃でも受ければ……?」
参謀:
「致命的です。
舵やスクリューをやられれば……
即座に“死に体”になります。」
ルッツェンスは苦く笑った。
「勝利の代償が……これほど高いとはな。」
参謀:
「勝利ではありません。
これは――賭けに負けたのです。」
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【300:午前6時37分・英空軍哨戒機(カタリナ飛行艇) ― “空からの目”】
カタリナ飛行艇の操縦席。
パイロットが双眼鏡を下ろして叫ぶ。
パイロット:
「海は荒れてきている……
あの巨艦でも視界を切られる……」
副操縦士:
「じゃあレーダーだ!
最初の捕捉は俺たちがやる!!」
パイロット:
「そうだ。
よく見ておけ――
あの怪物は海に潜れない。」
2人の顔には
恐怖よりも“闘志に火がついた笑み”があった。
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【301:節末(12/15) ― “北大西洋の巨大な包囲網が動き始める”】
午前6時37分。
デンマーク海峡を離れた瞬間から、
戦闘は“戦艦 vs 戦艦”ではなくなった。
これは――
“国家 vs 戦艦ビスマルク”の戦いである。
▼ 英側
•本国艦隊が全兵力を動員
•空母アーク・ロイヤルとヴィクトリアスが南北から包囲
•サフォーク/ノーフォークが影のように追尾
•カタリナ飛行艇が空から捜索
•国家規模の“追撃網”が形成開始
▼ 独側
•ビスマルク燃料漏出で航続距離大幅減少
•機関室は修理不能の危機
•プリンツ・オイゲン離脱で護衛喪失
•ルッツェンス司令部は作戦崩壊を認識
•帰還ルートは“死刑宣告”に等しい




