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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン2
333/2311

第98章 横須賀第3ドック・大和炉室改造現場(D-127)


巨大なドック内に、鉄の匂いと溶接の火花が漂っている。

艦底近くの炉室は、半分が仮設照明に照らされ、蒸気管の間を人影が忙しく行き来していた。


安西(民間造船所主任)

「ここの旧燃焼炉、リベット留めが一部腐食してるな。外す前に仮補強入れないとタービン軸受に応力がかかる」


黒川技官(防衛装備庁)

「補強は高張力鋼でお願いします。現代ボイラーの重量分布が変わるので、炉室前後での荷重バランスも再計算してほしい」


古賀機関長(昭和20年・大和乗員)

「荷重バランス……俺らの頃は、釜を下ろすなんて想定しちゃいなかった。

 でもボイラーの心臓部は、ちょっとやそっとじゃ歪まねぇ造りだ」


安西

「ええ、造りは確かです。ただ、現代ボイラーは炉圧と蒸発効率が桁違いです。

 旧式タービンに合わせるには、蒸気温度を下げる制御弁を新設しないといけません」


古賀

「そんな高温の蒸気を入れたら、ブレードが一発で歪むぞ」


黒川

「だから中間段で熱交換を入れます。二段減圧で過熱蒸気を抑え、タービン入口温度は最大で540度に制限します」


古賀

「540度か……当時はせいぜい450度だ。だが出力を維持できるなら悪くない」


作業員がクレーンで巨大な燃焼炉を吊り上げる。

鉄板がきしみ、炉室にこだまする。


安西

「これで一基目撤去完了です。新型はモジュール構造だから、搬入はこの開口部から一括でいけます」


古賀

「おいおい、俺らは一枚板を溶接しながら作ったんだぞ。こんな“分解できる釜”なんて想像もしなかった」


黒川

「その分、整備性も補修速度も桁違いです。戦時は一日止めるだけで戦力が落ちますから」


古賀

「……確かに、停めたら次は沈むまで止まらんのが、俺たちの時代だったな」


三人はしばし無言で、炉室に差し込む冬の光を見上げた。

その光の向こうでは、溶接火花と作業員の怒号が交錯し、残り127日のカウントダウンは止まらないままだった。



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