第223章 第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》 10/15
― “フッド沈没後の反撃:追撃戦への第一歩” ―
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【270:午前6時24分40秒・プリンス・オブ・ウェールズ艦橋 ― “最初の反撃”】
艦長リーチは、
フッドの爆沈を目撃した直後とは思えないほど
冷静に命じた。
艦長リーチ:
「第七斉射、撃て。
我々の役割は“時間を稼ぐ”ことだ。」
砲術長:
「照準、ビスマルク前部装甲帯!
斉射準備、完了!!」
副長:
「敵との距離、約26.5 km!!
この距離でも十分に貫通可能です!!」
艦長リーチ:
「撃て!!」
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【271:午前6時24分45秒・POW 第七斉射】
炎柱。
POWの砲口から放たれた14インチ砲弾は
ビスマルクへ向けて“精密の弧”を描く。
見張り員(POW):
「着弾まで23秒!!
風は弱い!!
命中の可能性あり!!」
艦橋内に緊張が走る。
砲術長(心中):
(この一撃だけでもいい……
ビスマルクの足を止めろ……)
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【272:午前6時24分50秒・ビスマルク艦橋 ― “敵の反撃に気づく”】
見張り員:
「敵艦、砲撃継続!
新たな斉射を確認!!」
副長:
「POWはまだ戦うつもりか……
だが単艦では我々に勝てん!!」
砲術長シュテルツェル:
「とはいえ、やつの14インチは正確だ。
命中すれば深い傷になる。
侮れません。」
艦長リンデマン:
「次はPOWを沈める。
フッドは沈んだ――
あとは“餌”だ。」
副長(心中):
(……そんなに甘くはないぞ、艦長。
あの新鋭艦は堅い……)
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【273:午前6時25分05秒・ビスマルク被弾(POW第七斉射の結果)】
見張り員(ビスマルク・緊張の叫び):
「着弾!! 左舷前部、至近弾!!」
つぎの瞬間――
轟音。
艦体が横から殴りつけられたように揺れる。
損害主任:
「報告!!
左舷前方・船体外板に“凹みと亀裂”!
水線上、浸水軽微!」
副長:
「致命傷ではないか……?」
主任:
「損傷は“軽微から中程度”!
だが前部の居住区に破片が散乱!」
砲術長(冷静に):
「問題ありません。
戦闘続行可能。」
艦長リンデマン:
「全砲門、POWへ!!
餌ではなかったようだ――
本気で潰す。」
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【274:午前6時25分10秒・POW艦橋 ―“命中確認”】
見張り員:
「ビスマルク命中!!
船体前部に破片、煙が見えます!!」
砲術長:
「よし!!
まだ戦える!!
奴らに“傷は入る”!!」
艦長リーチ:
「……ならば十分だ。
少なくともビスマルクを“易しい相手”にはできない。」
POW全体に
“フッドの敵討ち”ではなく、
「時間を稼ぐ戦い」 の意識が芽生え始めた。
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【275:午前6時25分20秒・ビスマルク艦橋 ― 燃料流出の深刻化】
損害報告(追加):
「艦長!
右舷タンクからの燃料漏出、広がっています!
流出量・1時間あたり400トンに達する恐れ!!」
艦橋が静まり返る。
副長:
「……これは……まずい……
1時間で400トン失うなら……」
航海士:
「作戦続行距離の半分以下になります!!
大西洋作戦は……継続不能!!」
ビスマルク艦隊の戦略目的――
「大西洋通商破壊作戦」
が、この瞬間 不可能 になった。
艦長リンデマン:
「……我々は勝利した。
だが――
帰りの燃料がない。」
彼の言葉に、
戦術勝利と戦略敗北の“ズレ”が凝縮していた。
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【276:午前6時25分30秒・ドイツ艦隊司令部 ― 無線で状況把握】
ビスマルクから、断片的な報告が届く。
無線:
「……敵大型艦フッド撃沈……
我、損傷――燃料流出……
長距離行動困難……」
ルッツェンス:
「なに……?
勝利したのに……帰れない……?」
参謀:
「作戦の軸そのものが崩壊します……!」
ルッツェンスは
唇を噛みしめて言った。
「戦略的には……敗北だ。」
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【277:午前6時25分40秒・プリンツ・オイゲン艦橋 ― 減速】
副官:
「ビスマルクの燃料損傷が思った以上に深刻……
我々はどう動きますか?」
オイゲン艦長:
「燃料は我々の方が残っている。
このまま分離し、単独で通商破壊に向かう。」
副長:
「ビスマルクは……?」
艦長:
「……戻れないなら、
我々だけでも任務を完遂するしかない。」
(※史実通りの判断)
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【278:午前6時25分50秒・POW艦橋 ―“戦闘継続の限界”】
砲術長:
「砲塔2番、ジャム発生!!
4番は油圧低下で照準が遅い!!」
副長:
「敵の砲精度、上がっています!!
このままでは……こちらが沈む!!」
リーチ艦長は、
誰よりも早く結論に至った。
艦長リーチ:
「主砲2門で斉射を継続。
しかし――
5分後に退避行動へ移る。」
副長:
「撤退……?」
艦長:
「フッドのように沈む訳にはいかん。
命を賭けて時間を稼ぐが――
死ぬ必要はない。」
副長(息を呑む):
「……了解。」
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【279:午前6時26分・ビスマルクの“追撃不能”が事実上確定】
水雷長:
「燃料漏出、減速しても止まりません!!
各タンク間の隔壁も損傷!!」
航海長:
「この状態ではPOWを追撃しても、
帰還不能になります!!」
艦長リンデマン:
「……追撃をあきらめることはできん。
だが――
長距離は無理だ。」
副長(静かに):
「艦長……これは
“勝ってしまったことによる敗北”
かもしれません。」
リンデマンは、
その言葉に返す言葉を持たなかった。
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【280:午前6時26分10秒・戦場の構造が“完全に反転”】
・フッド沈没
→ ビスマルクの戦術勝利
・燃料流出
→ ビスマルクの戦略敗北開始
・POW反撃命中
→ ビスマルクの機動力低下決定
・POW撤退戦の準備
→ 英海軍が“時間戦略”を発動
・プリンツ・オイゲン分離
→ ビスマルク護衛喪失
ここから戦場は
**「追撃戦」**へと転じる。
この時点で
すでにビスマルクの運命は決まっていた。
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【281:章末(10/15) ― “フッドの死が、英海軍全体を覚醒させる”】
午前6時26分。
デンマーク海峡の戦いは、
第一幕を完全に終えた。
▼ 英側
•POWが反撃に成功し、“時間稼ぎ”に役割変更
•英艦隊全体がビスマルク捕捉へ集中
•フッド喪失の衝撃で、司令部の判断が加速
•“追撃”という長い第二幕が始まる
▼ 独側
•ビスマルクは戦術面で勝利
•しかし燃料漏出が戦略敗北を確定
•オイゲンは単独行動
•帰路を失ったビスマルクは“北大西洋の罠”へ向かう




