第222章 第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》 9/15
― “巨大艦消滅の余震:勝利の中に始まる敗北” ―
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【260:午前6時23分50秒・プリンス・オブ・ウェールズ艦橋 ― “理解が追いつかない”】
フッドが光球と化してから、
まだ 1秒 しか経っていない。
だが艦橋では、
その1秒が“永遠にも似た空白”だった。
見張り員(震声):
「……艦が……消えた……
本当に……?」
砲術長:
「煙……破片……
船体が……どこにも無い……」
副長:
「まさか……
あのフッドが……一撃で……?」
艦長リーチは
誰よりも先に現実を理解していた。
艦長リーチ(静かに):
「フッドは――爆沈した。
我々だけだ。」
その声には、哀悼より先に
“戦術上の責任の重さ”が滲んでいた。
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【261:午前6時23分55秒・プリンス・オブ・ウェールズ内部 ― 衝撃に凍る乗員】
機関室、砲塔、発令所、士官室――
全ての場所で
同じ言葉が同時に漏れた。
「フッドが……無い……」
砲塔員:
「艦隊の象徴が……秒で……?」
機関士:
「今の爆発……核兵器のようだった……」
無論、核ではない。
だが火薬数十トンの爆轟は
その想像を超えていた。
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【262:午前6時24分・POW艦橋 ― “決断”】
リーチ艦長は、
この絶望的瞬間において
“冷静な数式”で状況を読み直していた。
彼は自問する。
•我々は単艦でビスマルクと戦えるか?
•砲塔は故障を抱え、制御も不完全
•装甲は強いが、火力と速度で不利
•フッドが沈んだ今、艦隊の指揮も我々だ
そして結論を出す。
艦長リーチ:
「15分だけ戦う。
その後、スモークを焚いて距離を取り、
“追撃戦”に移る。」
戦術の切替の速さは、
英国海軍史でも屈指の判断だった。
副長:
「了解……!
フッドの敵を討つまで、少しでも――!」
リーチ:
「討つのではない。
奴の逃走を“遅延”させる。
ラミリース級戦艦、空母、巡洋艦が追いつくまでの時間を稼ぐ。」
ここで明確に、
POWは“戦う艦”ではなく
**“捕捉時間を稼ぐ艦”**に役割を転換した。
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【263:午前6時24分05秒・ビスマルク艦橋 ― 勝利の絶句】
フッド沈没の光球からわずか5秒後。
ビスマルク艦橋にも、理解不能な沈黙が広がった。
見張り員:
「……消えた……
フッドが……」
副長:
「どうだ……
いまの本当に……?」
それは驚嘆ではなく、
“理解不能”という種類の沈黙だった。
砲術長シュテルツェル(机に手を置きながら):
「計算は合っていました……
だが……ここまでの結果になるとは……」
ビスマルクの砲術は強力だが、
主砲は“魔法”ではない。
たまたま――
構造的弱点、角度、火災、ガス圧、装甲段差、弾道が重なった結果である。
艦長リンデマンは静かに呟いた。
「……我々は勝ったのか……?」
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【264:午前6時24分10秒・ビスマルク乗員の反応】
砲塔内、機関部、弾薬庫、士官室。
全ての区画で歓声が上がった。
砲塔員:
「やったぞ!!
イギリスの誇りを沈めた!!」
見張り員:
「世界最強の巡洋戦艦を、一撃で……!!」
しかし、
興奮の裏で“無言の恐怖”を抱く者もいた。
副長:
「……あの爆発。
もし、あの事象がこちら側で起きていたら――」
砲術長(冷や汗):
「……ビスマルクも同じ運命だったでしょうね。」
彼らは知っていた。
戦艦は強靭だが、
“火薬庫”が致命打を受ければすべて終わる。
勝利の歓声は、
“紙一重の恐怖”の上に立っていた。
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【265:午前6時24分15秒・ビスマルク艦橋 ― もうひとつの“運命の弾”】
見張り員:
「艦長!!
我々も被弾しています!!
右舷水線下、煙が上がっています!!」
艦全体がわずかに傾いていた。
副長:
「プリンス・オブ・ウェールズの弾か……?」
砲術長:
「距離と角度から計算すると……
6時20分以前の斉射の余波……
つまり“フッド沈没前の弾”です。」
実はこの命中弾こそが
ビスマルクの運命を“決定づける”傷だった。
艦長リンデマン:
「損害報告!!」
損害主任:
「右舷タンクから燃料流出!!
重大ではないが、長期航行は不可能!!
航続距離に影響します!!」
艦橋がざわつく。
副長:
「……大西洋作戦で燃料漏れは致命的だ……!」
砲術長:
「修理は……
航行しながらでは無理でしょう……」
リンデマン艦長は、
表情を動かさずに決断した。
艦長リンデマン:
「この勝利は……
“終わりの始まり”かもしれん。」
それはまさに歴史が語る通りだった。
ビスマルクはこの時点で
帰還不能
となった。
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【266:午前6時24分20秒・ドイツ随伴艦プリンツ・オイゲン ― 電撃の観察者】
プリンツ・オイゲン艦長:
「フッド……爆沈……
信じられん……」
砲術将校:
「あの規模の艦が……
3秒で完全消滅……」
副官:
「しかし……我々は無傷です。
次はPOWを追撃しますか?」
オイゲン艦長:
「いや、燃料状況が厳しい。
ビスマルクの護衛として行動を継続する。」
(※のちに分離し、単独で雷撃と追跡を振り切る)
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【267:午前6時24分30秒・POW艦橋 ― 対峙は続く】
フッドが消えた海面を背に、
POWは、孤独なまま主砲制御を続けていた。
砲術長:
「第七斉射、準備でき次第撃てます!」
艦長リーチ:
「了解。
“撤退戦の準備”に入る。」
彼は、静かに、
しかし確固たる声で副長に命じた。
「フッドの後を追って死ぬわけにはいかん。
我々は戦わねばならん――“生き残るため”にな。」
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【268:午前6時24分35秒・海面の残骸 ― 3名の生存者】
黒煙の海面に、
わずかな破片と油膜。
そして――
3名の兵士が意識を取り戻しかけていた。
水兵A(血まみれで):
「……俺は……死ななかった……?」
水兵B:
「フッドが……
無くなったのに……俺だけ……?」
彼らには、
何が起こったのか理解できるはずもなかった。
水兵C(微かな声):
「光が……来て……
次に……海の中だった……」
海面の静けさが
逆に残酷だった。
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【269:章末(9/15) ― “勝利と敗北の同時発生”】
フッドは消滅した。
しかし同時に、以下の“伏線”が成立した。
▼ 英側
•POWが戦術を“遅延拘束戦”に移行
•英艦隊全体が追撃に向けて動き出す
•フッド喪失の衝撃で英世論は激変
•リーチ艦長は英雄的判断を始める
▼ 独側
•ビスマルクは勝利
•しかし“燃料流出”という致命傷を負う
•この損傷がのちに帰還不能と孤立を招く
•勝利がそのまま破滅の始まりになる
▼ 海
•フッド生存者は3名
•爆沈の衝撃で海は油膜と破片に覆われ、“静かに”なった




