第220章 第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》 7/15
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― “第七斉射:死の風が吹き抜ける20秒前” ―
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【230:午前6時22分50秒・フッド艦橋 ― “後部の異音”】
艦橋内に、低く響く
「ゴウン……ゴウン……」
という重低音が伝わった。
操舵士:
「いまのは……?
まるで船体内部で“呼吸”しているような……」
副官(顔色が変わる):
「後部……空気圧の変動!?
どこかが破裂したのか……?」
通信兵:
「後部区画からの報告途絶!!
連絡線が全て沈黙!!」
提督ホランド:
「隔壁が破れたか?
だが、まだ爆発は――」
言葉にした瞬間、
艦全体が一瞬だけ“浮き上がるように震えた”。
カー艦長:
「提督……
後部弾薬庫が危険域に入った可能性があります!」
ホランド提督は歯を食いしばる。
「しかし速力を落とせば――
我々は奴の砲で粉々になる!!
前進を続けろ!!」
艦橋の誰も口を挟めなかった。
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【231:午前6時22分55秒・フッド後部区画 ― 火薬の“崩壊前兆”】
整備兵(咳込みながら):
「煙が……白い……!?
なんだこれ……油の煙じゃない……!!」
白煙は――
火薬の蒸気(Nitrocellulose gas)。
温度上昇によって微細に分解し始めていた。
隊長(震える声):
「……火薬自体が“汗をかいてる”……
臭いが違う……
これは……誘爆の前兆だ……!!」
整備兵:
「逃げるぞ!!
こんな場所にいたら……!!」
だが出口は煙と炎で塞がれていた。
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【232:午前6時23分・ビスマルク艦橋 ― 第七斉射準備完了】
砲術長シュテルツェル:
「第五・第六斉射で後部と中央に損害!!
フッドはすでに“致命的条件”にある!!」
副長:
「第七斉射の狙いは?」
砲術長:
「**後部中央の“合わせ目”(装甲段差)**です。
あそこは防御力が弱く、先ほどの損傷で“柔らかく”なっています。」
艦長リンデマン:
「了解。
打ち抜け。」
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【233:午前6時23分05秒・プリンス・オブ・ウェールズ艦橋 ― 焦燥の極み】
副長(双眼鏡を覗きながら):
「フッドの後部炎が増大!!
黒煙が濃く、
“船体内部へ吸われるように”見えます!!」
艦長リーチ:
「……あいつは危険だ……
提督の射角接近命令が“裏目”に出た……」
砲術長:
「第六斉射、準備中!
4番砲塔の遅延は継続!」
リーチ艦長:
「撃ち続けろ。
すこしでも
“ビスマルクの狙いを狂わせろ”。」
その願いは、いまからわずか40秒後に絶望する。
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【234:午前6時23分10秒・フッド見張り台 ― 空気を読む“最後の証人”】
見張り員:
「……炎が……
上がらない……?」
双眼鏡の先で、フッド後部の炎が
突然“引っ込んだ”。
まるで船体全体が
深く息を吸い込んだかのように。
見張り員:
「……風じゃない……
船の中が……空気を吸ってる……!!」
その直感は正しかった。
弾薬庫内の気圧が変動し、
爆発の“前兆呼吸”が始まっていた。
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【235:午前6時23分15秒・フッド主砲塔 ― 最後の射撃準備】
砲術将校:
「第七斉射、準備――
だが……装填速度が落ちている!!
火災の熱で砲塔内部が……!」
砲塔員A(熱で頬を赤くしながら):
「砲塔後部の鋼板が……触れられないほど熱い!!」
砲塔員B:
「冷却水の流量……減ってる!!
このままじゃ砲塔自体が……!」
砲術将校:
「撃てるうちに撃つしかない!!
我々の砲で運命を変えろ!!」
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【236:午前6時23分20秒・フッド第七斉射】
ホランド提督:
「撃てッ!!」
フッドの砲身が最後の力を振り絞って火を噴いた。
しかし――
火災による熱の歪みで、照準線は“ミリ単位”で狂っていた。
副官:
「弾道が……揺れています……!」
この揺れが“命の差”となる。
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【237:午前6時23分25秒・ビスマルク主砲塔 ― 第七斉射の最終照準】
砲塔指揮官:
「照準安定!!
狙点、フッド後部装甲段差!!
仰角良し!!」
砲術長:
「第七斉射――
発射ッ!!!」
巨大な衝撃波が艦全体を震わせた。
見張り員(POW):
「きた……!!
ビスマルクの弾がまた来る!!
今度は……
“一直線”だ……!!」
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【238:午前6時23分30秒・フッド後部区画 ― 火薬庫の心臓が動き出す】
整備兵:
「火薬が……発泡してる……!!
白煙……泡……
これは……誘爆寸前の“自己反応”!!
逃げろ!!逃げろ!!!」
隊長:
「もう無理だ!!
熱とガス圧で……倉庫内の空気が……!!」
金属の断続音。
内部からの膨張音。
そして――
「ゴゴゴゴゴ……」
船体内部の“低いうなり”が増していた。
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【239:午前6時23分35秒・プリンス・オブ・ウェールズ第六斉射】
砲術長:
「第六斉射、撃て!!」
POW弾が飛ぶ。
しかし――
その弾道は、フッドの運命とは“完全に無関係”
になりつつあった。
艦長リーチ:
「……間に合わない……
フッドの火勢が……臨界だ……」
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【240:午前6時23分40秒・フッド見張り台 ― “何かが近づく音”】
見張り員:
「……音が違う……
ビスマルク弾の“落ちてくる角度”じゃない……
もっと……水平だ……
これは……!」
ビスマルク第七斉射は
“垂直落下”ではなく、
“後部装甲を貫通する角度”で来ていた。
彼は絶叫した。
「後部中央!!
来る――!!!」
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【241:午前6時23分42秒・ビスマルク第七斉射着弾(決定打の“直前”)】
弾はフッド後部へ向かい、
装甲段差へ吸い込まれるように迫る。
着弾まで――あと1.4秒。
そしてフッドの弾薬庫は
すでに爆発寸前の温度と圧力に達していた。
艦は、もはや“待つだけ”だった。
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【242:章末(7/15)・沈没まで約15秒】
午前6時23分42秒。
沈没まで――約15秒。
▼ フッド
•弾薬庫前室の隔壁破壊
•火薬が自己反応を開始
•船体内部の気圧異常
•火が“吸い込まれる”前兆呼吸
•そして第七斉射が後部中央に向かう1秒前
▼ ビスマルク
•完全に“急所”を射抜く弾道
•第七斉射の1発が致命弾
▼ プリンス・オブ・ウェールズ
•援護射撃続行
•しかしもう運命は変わらないと気づき始める




