第97章 意図せぬ勝利
模擬戦から数日後。
古村は再び模擬CIC室にいた。
今回は「電子戦訓練」。敵役は最新型イージス艦を想定し、こちらは僚艦と護衛艦1隻ずつ。
任務は敵のミサイル攻撃から輸送船団を護ることだった。
「敵はECM(電子妨害)を使用してきます。レーダーはノイズだらけになります」
杉浦二佐が説明し、コンソールの一部が意図的に砂嵐のような映像に切り替わった。
古村はスクリーンを眺めたが、妨害下では赤い三角形すら表示されない。
ほとんどのオペレーターは対電子戦マニュアルに従い、再探知モードに切り替えようとしていた。
だが古村は、何も表示されない海図をじっと見つめていた。
海図の上には、わずかな航跡データの欠片がノイズに紛れて残っていた。
「……敵は、この方角から来る」
古村は指を一つの方位に向けた。
杉浦が眉をひそめる。
「根拠は?」
「煙の匂いはせんが……動きが、あの頃の雷撃隊に似ている」
古村の声は淡々としていた。
オペレーターにその方位を重点監視させた結果、
わずか30秒後、ジャミングの隙間から敵ミサイルの発射光が捉えられた。
「捕捉!」
即座に迎撃ミサイルが発射され、敵の初弾はすべて海上で爆散した。
訓練終了のアラームが鳴り、室内にざわめきが広がった。
「……あのジャミング下で方位を特定できたのは初めてですよ」
杉浦は呆れたように笑い、古村の肩を軽く叩いた。
古村は小さく頷いた。
「艦も海も変わったが……人の癖は変わらんらしい」