第213章 ◆第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》 4/15
― “第四斉射の攻防/火災の拡大/距離29kmの死線へ” ―
【186:午前6時17分40秒・フッド後部 ― “火の舌が下へ伸びる”】
整備兵(悲鳴に近い声):
「火が……甲板の下に回り込んでる!!
早く消火ホースを!!」
海兵隊員A:
「オイ、隔壁が熱で膨張してるぞ……!!
弾薬庫じゃないのか……
まずい……!」
海兵隊員B:
「いや、まだ弾薬庫そのものには達していない!
ただ……燃料タンクが……!」
フッド後部下層には
軽油タンク、通信ケーブル、弾薬庫手前の予備室が密集していた。
第三斉射の“危険な角度”での貫通後、
噴き込んだ火焔は
軽油タンク上部の通風孔 に着火。
そこから“舌のように”火が延びていた。
整備兵:
「隔壁封鎖!!
空気を遮断しろ!!」
しかし火焔は鉄を舐め、
塗装を溶かし、
漏れ出した油に点々と燃え移り始める。
この時点での火災は“非常に小規模”。
だが――
“場所が悪すぎた”。
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【187:午前6時18分・フッド艦橋 ― 状況判断の遅れ】
副官:
「後部で小火災との報告です!
ですが被害は軽微!
弾薬庫には達していません!」
ホランド提督:
「了解。
現在重要なのは“ビスマルクの砲撃速度”だ。
奴らが次を撃つ前に、こちらが距離を詰める!」
艦長カー:
「速力31ノットへ!
船体が軋んでも構わん!!」
操舵員:
「了解!!」
しかし――
この「速力上昇」が
後に致命的な要素となる。
速力を上げれば、
艦尾はさらに低く沈み、火災は後方へ拡大しやすくなる。
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【188:午前6時18分15秒・ビスマルク艦橋 ― 第四斉射の準備完了】
砲術長シュテルツェル:
「砲塔1番・2番、照準再固定!
弾道計算修正――完了!
“後部甲板中央”を狙います!」
副長:
「第三斉射で照準は完全に掴んだ。
次で決められる……!」
艦長リンデマン:
「主砲、第四斉射――準備完了次第撃て。」
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【189:午前6時18分30秒・プリンス・オブ・ウェールズ砲術室 ― “焦りの中の計算”】
砲術長:
「第三斉射の準備!
4番砲塔の油圧が完全に落ちました!」
技術兵:
「手動補正では照準が遅れます、砲術長!!」
砲術長:
「遅れてもいい!
戦場に“間に合わせる”のが仕事だ!!」
艦長リーチ:
「焦らず撃て。
我々はフッドの援護だ。」
火器管制員:
「射角良し!
仰角修正完了!!」
艦長リーチ:
「第三斉射、撃て!」
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【190:午前6時18分45秒・フッド艦橋 ― “四度目の射撃準備”】
砲術長(通信で):
「提督!!
第四斉射準備完了!!」
ホランド提督:
「撃て。」
短く、鋼のような声。
それは“命令”というより
まるで敵を切り裂く刃そのものだった。
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【191:午前6時18分50秒・フッド第四斉射】
三連装砲塔が四度目の炎を上げる。
見張り員(POW):
「フッド、また撃った!!
やっぱり速すぎる……
あの艦は急ぎすぎてる!!」
副官:
「焦っている……
フッドの船体が震えているのが分かる……」
距離短縮のための高速航行は、
砲撃精度にも微妙な揺れを与え始めていた。
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【192:午前6時19分・戦場距離 29.8km ― 臨界点】
航海長:
「距離、ついに30kmを切りました!!
29.8!!」
副長:
「照準がさらに鋭くなる!!
“角度が付く”ぞ!!」
砲術長:
「主砲!
最終補正完了!!」
艦長リンデマン:
「……撃て。」
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【193:午前6時19分10秒・ビスマルク第四斉射】
ビスマルクの砲門が
黒い光芒と共に火を吹く。
八発の380mm砲弾が
空中へ“螺旋を描くように”跳ね上がり、
急激に角度を変えて落下を開始。
砲術長シュテルツェル:
「飛翔時間は……27秒!!
命中確率はこれまでで最大!!」
副長:
「フッド、避けられんぞ……!」
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【194:午前6時19分30秒・POW第三斉射の結果】
見張り員:
「POW砲弾、左舷後方――
300メートル!!」
副長:
「依然として正確性に欠ける。
新鋭艦ゆえの不運だな。」
砲術長:
「問題ない。
彼らの砲弾は脅威ではない。」
艦長:
「目標はフッドのみ。」
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【195:午前6時19分35秒・フッド後部 ― “火の舌が広がる”】
整備兵:
「隔壁、閉鎖完了!!
だが……火が上方から降ってくる!!」
海兵隊員:
「天井のケーブルが燃えてる!?
くそ、上甲板の穴から火が逆流してるんだ!!」
隊長:
「上からの火焔を遮断しろ!!
天井の防火材を貼れ!!」
だが、
火は油に触れた瞬間“白く閃光を上げて”勢いを増した。
隊長(小声):
「……嫌な予感がする……
火の性質が……悪い……」
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【196:午前6時19分37秒・フッド艦橋 ― “まだ気づかぬ破滅”】
参謀:
「後部火災、鎮火中との報告です!!
まだ拡大はしていません!」
ホランド提督:
「よし。
あとは距離を30→25キロへ詰めれば勝機がある!!
全速前進を続けよ!!」
副官:
「了解!!」
フッド艦橋の誰も、
後部で“炎が逆流して隔壁を舐め始めている”ことに
まだ気づいていなかった。
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【197:午前6時19分40秒・フッド見張り所 ― 死神の影】
見張り員(震える声):
「ビスマルクの弾影……!!
来る……!
さっきまでよりもっと……
怖い角度だ!!」
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【198:午前6時19分45秒・ビスマルク第三・第四斉射の“時間差”が噛み合う】
砲術長シュテルツェル:
「第三斉射の着弾が……
今、フッドの“前方”を掠める!!」
副長:
「二十秒前の分だな!」
シュテルツェル:
「第四斉射はもっと後方だ……
二つの着弾点が“挟み撃ち”になる!」
艦長:
「いい。
フッドを“砲撃楔”で押し潰す。」
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【199:午前6時20分・ビスマルク第四斉射の着弾 ― 致命へのカウントダウン】
見張り員:
「来るぞ――!!!!
距離……近い……!!」
空が裂けた。
地鳴りのような衝撃波が海面を叩きつけ、
後部上空で光が閃く。
砲弾1発が
後部上甲板を直撃し、
厚さ76mmの装甲を貫通――
火焔が下層に吹き込む。
副官:
「直撃!!
後部に大規模火炎!!」
ホランド提督:
「隔壁を閉じろ!!
消火隊を急がせろ!!」
しかし、この時点でもまだ
“致命傷”とは誰も思っていない。
だが実際には――
火焔はすでに弾薬庫前室へ流れ込もうとしていた。
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【200:章末(5章 4/15) ― “終末への手が届いた距離”】
午前6時20分。
距離は 29.0km。
ビスマルク第四斉射が、
フッド後部へ“決定的な穴”を開けた。
その穴は、
後に弾薬庫へ火が流れ込む“唯一の入口”となる。
POWはなお砲塔不調ながら援護射撃を続行。




