第210章 第5章《デンマーク海峡海戦:巨砲の交差と破滅》
1/15 ― “先に敵を見たのは誰か/照準計算の狂気/運命の第一射” ―
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【151:午前6時02分・北大西洋/フッド艦橋 ― “視界の中の怪物”】
見張り員:
「北西――!
巨大艦影、はっきり見えます!!
艦首をこちらに向けています!!」
副官(息を呑む):
「……あれが……ビスマルク……」
青灰色の水平線の向こう、
霧に濡れた巨体が“動かない氷山”のように佇む。
だが氷山ではない。
あれは――“砲を向ける殺戮機械”だった。
ホランド提督(短く):
「戦闘開始だ。」
艦橋の全員が
その言葉で戦闘の現実へ引き戻される。
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【152:午前6時03分・プリンス・オブ・ウェールズ艦橋 ― “数学と死の等式”】
砲術長:
「射距離……36,500メートル!
計算機に入力します!!」
火器管制士官:
「風速、東へ6。
海面温度の変動で照準がぶれます、補正を!」
砲術長:
「わかっている!
新鋭艦だろうと、計算は鉄だ!」
艦長リーチ(静かに):
「落ち着け。
我々は“フッドの側面援護”だ。
最初に撃つのは兄貴分のフッドだ。」
視界の奥で、フッドはすでに航路を北へ切っている。
艦長:
「フッドが突っ込む。
我々はその後ろを守る。
初弾が双方の運命を決める。」
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【153:午前6時05分・ビスマルク艦橋 ― “距離が縮む音”】
航海長:
「距離――36キロ。
敵戦艦、2隻。
手前がフッド、後方にPOW。」
砲術長シュテルツェル:
「砲塔、全基旋回完了。
仰角よし。
三角測距、確立。」
副長:
「砲術長、最初の射撃は?」
シュテルツェル:
「……フッド。
あの細長い艦首、上部構造物の“薄さ”。
装甲配置の弱点は明白だ。」
艦長リンデマン:
「よし。
全主砲、フッドに照準。
敵の“王家の剣”を折る。」
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【154:午前6時06分・英軽巡ガラテア/観測隊 ― “最初に見た第三者”】
双方の巨体が近づく光景は、
観測任務中の軽巡ガラテアからも見えていた。
観測士(双眼鏡を握りつぶすように):
「……まるで歴史の本が開いていくみたいだ……」
同僚:
「書かれるのは血か、鉄か、海水か……
どれにせよ“今日の歴史はここで決まる”。」
報告員:
「司令部へ送信!
フッド、ビスマルクと交戦開始!!」
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【155:午前6時07分・フッド砲術指揮所 ― “伝統の名に賭ける一撃”】
砲術長:
「距離36,000!
まだ遠いが撃てます!」
艦長カー:
「よし!
第一斉射、用意!!」
火器管制士官:
「補正完了!
風、よし!
仰角、よし!!」
ホランド提督(鋼の声で):
「――撃て。」
その瞬間、
フッドの主砲“381mm砲”が
世界を揺らす轟音を放った。
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【156:午前6時07分30秒・砲弾の飛翔】
フッドの三連装砲塔が火を吹き、
六発の砲弾が空を裂いた。
速度約800m/秒の弾丸は
空を真上にえぐるように上昇し、
弧を描いて降下を開始。
弾丸が落ちてくる方向は――
ビスマルクの“右舷前方”。
砲術長シュテルツェル:
「……フッドが撃った。
だが初弾は外れる。
こちらは落ち着いて照準を決める。」
艦長リンデマン:
「全主砲、準備……」
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【157:午前6時08分・フッド第一斉射の着弾】
海が爆ぜた。
フッドの初弾は
ビスマルクの手前200mに着弾。
巨大な水柱がビスマルク右舷を包む。
機関兵:
「被弾なし!!
水柱のみ!」
副長:
「距離修正を急いでくるぞ!
奴らは“精密砲撃の英国”だ!」
艦長:
「こちらも撃つ。
主砲――」
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【158:午前6時08分15秒・ビスマルク第一斉射】
砲術長:
「主砲一斉射――発射!」
ビスマルクの8門の380mm砲が
“艦体そのものを震わせる衝撃”と共に
火を噴いた。
砲炎は霧を蒸発させ、
大気をゆがめ、
海面に光の閃光が走った。
副長:
「弾丸、飛翔!!」
航海長:
「目標、フッド!!」
空気を引き裂く八つの弾丸が
高速で弧を描き、
フッドへ向かう――。
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【159:午前6時08分50秒・プリンス・オブ・ウェールズ砲術室 ― “新鋭艦の焦り”】
砲術長:
「落ち着け!
我々は第二撃で決める!!
砲塔4番、急げ!!」
技術兵:
「油圧、まだ安定しません!!」
艦長リーチ:
「どのみち撃つしかない。
故障しようが砲は砲だ。
英国の“新しい戦艦”はここで証明する。」
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【160:午前6時09分・ビスマルク第一斉射の着弾】
見張り員:
「ビスマルク砲弾、来ますッ!!
方位右舷前方から――!」
次の瞬間、
フッドの左舷後方で海が裂けた。
砲弾は艦の後方150mへ落ち、
水柱が“艦全体を包むほどの高さ”で吹き上がる。
副官:
「……近い!!
修正すれば、次は当たるぞ!!」
ホランド提督:
「第二斉射、急げ!!」
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【161:章末(5章 1/15) ― “巨砲戦の幕が上がる”】
午前6時10分。
両艦の距離は34キロ。
フッドは第二斉射の準備に入る。
ビスマルクは照準を微修正する。
POWは必死に砲塔を整備しながら追撃の構え。
――海と空がまだ白い。
その中で、
両軍の主砲だけが“世界を塗り替える線”を描き始めていた。
ここから、
史上最大の“砲撃戦”が本格的に開幕する。
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