第209章 第4章《ライン演習作戦・出撃》 15/15
15/15 ― “フッドとプリンス・オブ・ウェールズ前進/決戦直前の静寂/運命の交差点へ” ―
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【142:午前5時18分・北大西洋/フッド艦橋 ― “王家の剣、抜刀”】
霧が溶け、空が白み始めたその時――
フッドの艦橋には、
ついに運命の座標が届いた。
通信士:
「司令! 最新電文!
ビスマルク再捕捉――
方位298、距離約120海里!!」
提督ランセル・ホランド:
「……ついに来たか。」
彼の声は震えていなかった。
だがその目に宿るものは、
“英国海軍の宿命そのもの”だった。
副官:
「司令……
我々は、ついに――」
ホランド提督(静かに):
「突撃する。」
副官:
「……了解!」
フッドは“王家の剣”と呼ばれた。
伝統と威信を背負う。
そしてこの艦には、
“大艦巨砲時代の最終章”を飾る期待と重圧が
すべて積載されていた。
艦長カー:
「主砲、射撃準備に入れ!
全員、決戦配置につけ!!」
艦内の全員が
“これが最後の決戦になるかもしれない”と
無言で理解していた。
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【143:午前5時22分・プリンス・オブ・ウェールズ艦橋 ― 新鋭艦ゆえの緊張】
プリンス・オブ・ウェールズ(POW)は
まだ建造から間もない“若い戦艦”。
砲塔にも故障が多い。
だが英国の未来はこの艦に託されていた。
艦長リアム・リーチ:
「主砲1番・2番、作動点検完了。
しかし4番・5番砲塔に軽微な油圧異常……!」
砲術長:
「決戦前に調整を急がせていますが……
完全には直るかどうか……!」
艦長:
「多少故障していようが構わん。
我々はフッドの“妹分”ではない。
英国の未来を背負う独立の戦艦だ。」
通信士:
「司令部より全艦へ――
“決戦配置、迎撃態勢に移れ”」
艦長:
「全員、持ち場につけ!
今から我々が迎え撃つのは
“世界最強の戦艦”だ。
死闘は免れぬ。」
艦内の空気は張り詰め、
しかし同時に静かだった。
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【144:午前5時28分・北海の霧の残滓/ビスマルク艦橋 ― “彼らもまた待っていた”】
航海長:
「英巡洋艦の位置、回復しました。
そして……
後方から高速で接近する複数の大型艦を確認。」
副長:
「フッド……
プリンス・オブ・ウェールズ……」
艦長リンデマン:
「……来たか。
運命の剣と盾が。」
リンデマンは窓外の霧を見た。
もう霧は薄く、
海は“白金色の平原”のように広がる。
リンデマン艦長:
「この明るさでは、“隠れる”ことは不可能だ。
そして……
ここからは逃げることもできん。」
砲術長:
「主砲、完全作動。
射界良好。
射撃準備、完了しています。」
艦長:
「ありがとう、シュテルツェル。
君の砲は、ドイツ海軍の誇りだ。」
その言葉は、
艦橋にいる全員の胸を打った。
副長:
「艦長……
我々は、“ここで戦う”のですか。」
リンデマン:
「ああ。
ここが戦場だ。
この海峡こそ、ビスマルクのために存在する。」
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【145:午前5時33分・北大西洋 荒れる前兆】
北海の夜は終わり、
空は青灰色の光を帯びる。
ビスマルクとプリンツ・オイゲンは
北西へ向かいながら速度を維持。
海峡へと突き進む。
一方フッドとPOWは
南西から急速接近中。
双方の距離――
あと80キロ。
航海手(POW):
「距離、縮まっています。
1時間以内に戦闘距離に入ります!」
副官:
「フッドは前方から一直線に突っ込む!
我々はその後方をトドメ役として進む!」
艦長リーチ:
「……勝負は“最初の一斉射”だ。」
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【146:午前5時40分・英本国艦隊 司令部】
作戦参謀:
「フッド、POWともに迎撃軌道に入りました!
距離縮小中!」
大将タヴィストック:
「よし……
全艦隊へ伝えよ。
これは“英帝国海軍の総力を賭けた決闘”だ。
二度目のビスマルクは許されん。」
参謀:
「大将……
フッドは老朽化が進んでいますが……」
大将(怒気ではなく、深い悲しみで):
「分かっている……。
だが――
その剣は最後まで“王家の剣”であり続ける。」
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【147:午前5時45分・北海上空 ― “鳥が沈黙する”】
何百羽もの海鳥が、
一斉に航路から離れ、
空へと舞い上がった。
彼らは“戦い”の気配を感じ取っていた。
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【148:午前5時50分・ビスマルク艦橋 ― 開戦前の静寂】
敵の気配が、
もう目に見えぬほど近い。
航海長:
「距離、約45キロ。
もうすぐ……見えるはずです。」
副長:
「艦長……
我々は勝てますか?」
リンデマンは、
わずかも迷わず答えた。
艦長リンデマン:
「勝てるかどうかではない。
我々は“戦うために造られた”。
それで十分だ。」
砲術長:
「主砲、いつでも撃てます。」
艦長:
「よし――
全艦、決戦配置。」
低く、しかし艦内全員が震える声で
命令が響く。
艦長リンデマン:
「――構えろ。
これより我々は“王家の剣”と戦う。」
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【149:午前5時55分・フッド艦橋 ― 伝統を背負う者】
見張り員:
「見える!!
北西方向、水平線上に――
巨大な艦影!!」
副官:
「ビスマルクだ……!
この距離でも分かる!!」
ホランド提督(低い声で):
「英国艦隊、突撃せよ。」
フッド全艦へ:
「全員、衝撃に備えろ!!
最初の一撃で決める!!」
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【150:章末(4章終幕) ― “歴史が呼吸を止める瞬間”】
午前5時58分。
薄い雲間からわずかに太陽の線が差した。
その光の帯の中で、
ビスマルクとフッドが初めて互いを視認した。
距離、約36キロ――
主砲が“届く距離”。
世界史が静かに息を止め、
海だけが荒れる前兆でうねっていた。
そして――
次の章で、
“史上最大の砲撃戦”が始まる。
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