表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3311/3519

第208章 第4章《ライン演習作戦・出撃》 14/15



14/15 ― “英艦隊の再捕捉努力/夜明け前の気象変動/決断の連鎖” ―



【133:午前2時41分・北海 ― サフォーク レーダー室】


 レーダー画面は“黒い海”のように静まり返っていた。

 その静寂が、レーダー手の焦燥を増幅させる。


レーダー手:


「……反射波、皆無……

ノイズばかりで、明確な物体はありません……!」


副長:


「距離が離れたのか?

それとも霧が深すぎて……?」


艦長エリス:


「両方だ。

だが“完全に消えた”なら、それはそれで問題だ。」


副長:


「どういう意味でしょうか?」


艦長:


「我々は“怪物の影”を捕まえる網だ。

網が切れれば、

フッドとプリンス・オブ・ウェールズは“どこを探すべきか分からなくなる”。

これはまずい。」


 北海の夜は、

 単なる暗闇ではなく“情報の喪失”そのものだった。



【134:同刻・英重巡ノーフォーク 艦橋 ― “焦燥と恐怖”】


副長:


「サフォークからの報告でも“反射なし”。

ビスマルクは霧の中に完全に紛れたとのことです。」


艦長プライド:


「……考えるまでもない。

奴らは“北西”へ逃げる。

デンマーク海峡へ向かう直前、

一気に速度を上げるはずだ。」


副長:


「しかし追えません。

あれほどの巨艦が、

霧と海流を味方につけるなんて……」


艦長:


「勝つ必要はない。

“位置さえ知らせ続ければいい”。

だが位置が分からんのなら……

我々は英本国艦隊の“眼”ではなくなる。」


レーダー手:


「艦長……

このままでは、明け方に“北大西洋へ逃げられる”可能性があります。」


艦長プライド:


「それこそ絶対に避けねばならん。」


 艦長は深く息を吸い、

 冷えた北海の空気を肺に入れた。


艦長:


「全速にはせん。

だが絶対に距離を離すな。

奴の“航路予測線”を維持するのだ。」


副長:


「……了解。」



【135:午前3時12分・北海 ― “霧の二層化という罠”】


 この時間帯、北海では特異な現象が起きる。

 寒気が海面に降り、

 温かい海流の一部が“下層霧”を形成。

 その上に、風で流れた濃密な“上層霧”が重なる。


 ――まるで“二重のカーテン”だった。


サフォーク航海長:


「上層は風で流れていますが、

下層は停滞しています。

高さは40メートルほど。」


副長:


「ビスマルクの艦橋は……?」


航海長:


「約35メートル。

つまり“下層霧の中に艦橋ごと沈んでいる”。

レーダーも光学も効きにくい最悪の高度です。」


副長:


「……これでは捕捉不能……」


艦長エリス:


「いや――

霧が厚いのなら、厚いなりに“動きの癖”が出る。

わずかな反射変化を拾え。

北西へ直進しているか、

あるいは一度南西へ“蛇行”しているか。

いずれにせよ、霧の裏には痕跡が残る。」


 英艦隊は“影すら見えない巨艦”の後を追うしかなかった。



【136:午前3時48分・ビスマルク艦橋 ― “霧を読み切る”】


 ビスマルク艦橋では、

 気象観測士クレッチャーが

 霧の層を見抜いていた。


クレッチャー:


「艦長、今の霧は二層構造です。

上層が薄く、下層が濃い。

我々はちょうど下層霧の中心に位置している。」


艦長リンデマン:


「つまり、我々は“最も隠しやすい層”にいるのだな。」


クレッチャー:


「ええ。

ここから高度差による熱の変動で

下層霧がさらに濃くなります。

英巡洋艦はまず見つけられません。」


副長:


「……神が味方しているようだ。」


艦長(静かに首を振る):


「いや、味方しているのは“海そのもの”だ。

我々は海洋国家の戦艦だ。

海は我々を歓迎し、

敵には牙を剥く――」


航海長:


「艦長……

進路は?」


艦長:


「15度北西、速度28ノット維持。

霧が厚いうちに

海峡へ一気に突き進む。」



【137:午前4時20分・英本国艦隊司令部スカパ・フロー


報告将校:


「サフォーク、ノーフォークともに

“ビスマルクの正確な位置を見失った”とのことです!」


司令長官タヴィストック大将:


「見失った!?

霧がそこまで濃いのか!」


作戦参謀:


「敵は霧を利用して

デンマーク海峡へ直行している可能性。

ただし現在の捕捉線は“大きく揺らいでいる”とのこと。」


大将:


「……フッドとプリンス・オブ・ウェールズは

すでに出航済みだ。

だがこのままでは“待ち伏せポイント”を決められぬ。」


補佐官:


「大将……

どこに向かわせますか?」


 司令部の作戦盤に、

 北海からデンマーク海峡へ続くラインが描かれる。

 その上を、

 ビスマルクの“複数の予測航路”が蛇のように走った。


大将タヴィストック:


「余計なことはするな。

フッドは“王家の剣”。

奴らはビスマルクを必ず捕らえる。

全艦に“位置情報の更新を最優先せよ”と伝えろ。」



【138:午前4時53分・北海 ― “夜明け前の混乱”】


サフォーク・レーダー室は限界に来ていた。


レーダー手(半ば叫ぶ):


「ノイズが……さらに増大……!

海面温度の変化で反射が乱れています!!

何も……何も見えません!!」


副長:


「落ち着け!

何も見えないのは“敵も同じ”だ!」


レーダー手:


「しかし……

敵が全速で海峡に向かった場合、

5時半頃には海峡へ突入できる距離になります!!」


副長:


「なに……!?」


艦長エリス:


「その前に捕捉しなおさねばならん。

さもなくば――

北大西洋でビスマルクが自由に暴れまわる。」


 その瞬間、

 レーダー画面の端が微かに“揺れた”。


レーダー手:


「っ……!

弱い反射……!

しかしこれは……

“人工物の平面”の反射特性だ!!」


副長:


「方位は!?」


レーダー手:


「298度!

距離……2万3千メートル!」


副長:


「ビスマルクか!?」


レーダー手:


「おそらく……

そうです!!

これは巡洋艦のものではありません!!」


艦橋全体が震えた。


艦長エリス:


「捕捉した……!

全艦へ送信!!

ビスマルク、再捕捉!!」



【139:午前5時02分・ビスマルク艦橋 ― “危機の予兆”】


航海長:


「英巡洋艦の“動き”が変わりました。

敵は何かを掴んだ様子です。」


副長:


「捕まったか……!?」


艦長リンデマン:


「いや、僅かな反射だろう。

だが英艦隊は

“その僅かな反射を根拠に動く”。

気を抜くな。」


クレッチャー:


「霧はもう長く持ちません。

夜明けとともに晴れます。」


艦長:


「そうか。

夜明けまでの勝負と言ったが――

夜明けの瞬間こそ最大の危険ということだ。」



【140:午前5時10分・北海上空 ― “空が白む”】


 東の空がわずかに白む。

 霧が光を帯び、

 薄い層から溶けていく。


 その“溶けてゆく霧”の帯の中に、

 巨大な影が――

 ゆっくりと浮かび上がる。


レーダーサフォーク


「……見えます……!

肉眼で……!

あれは……!」


副長:


「あの巨影……

間違いない……

ビスマルクだ!!」


艦長エリス:


「位置確認!

すべての英艦へ送るぞ!!

これが運命の座標だ!!」



【141:章末(14/15) ― “決戦への扉が開く”】


 その座標は、

 イギリス海軍のあらゆる艦艇へ伝わった。


 フッド、プリンス・オブ・ウェールズ、

 そしてそれを支える多数の軽巡・駆逐艦へ。


指令電文:


「ビスマルク再捕捉。

方位298。速力維持。

全艦、迎撃準備。」


――この電文が送られた瞬間、

北大西洋最大の決戦が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ