第206 第5章「香港攻略 vs 北アフリカ電撃戦(ロンメル)」
《新寺子屋・歴史講義ホール》
(黒板にはすでに南條講師が「香港攻略」「ロンメル」と大書きしている。)
南條
「今日は、“まったく違う戦場で起きた二つの電撃作戦”を扱う。
日本軍の 香港攻略(1941) と、ドイツ軍ロンメル率いる 北アフリカ電撃戦(1941–42) だ。」
野本
「先生、舞台が全然違いすぎます……」
南條
「違いすぎるのがいいんだ。
片方は“山と密集都市の要塞攻撃”、
もう片方は“無限地平の砂漠での戦車戦”。
しかしどちらも“初動の速さ”と“敵の油断”を突いた作戦であり、
軍事史的に比較価値が高い。」
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■Part1:日本軍・香港攻略 ― “密林と要塞と都市戦”を同時に進めた作戦
●1-1 香港島の特徴:山・巨大要塞・密集市街地
香港は
・海に囲まれる
・山が多い
・島部と九龍側の二重構造
・都市は密集
・港湾は堅固
という“複合地形”。
イギリス軍は
・沿岸砲
・コンクリ要塞
・地下トンネル
を多数構築しており、
通常なら“歩兵だけで攻め落とすのは不可能”とされる。
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●1-2 日本軍の突破:夜襲と火力集中
日本軍は、
九龍側から逐次制圧し、
夜間に渡海して香港島へ突撃した。
使用した兵器は
・九四式山砲
・軽迫撃砲
・機関銃
など、軽火力中心。
歩兵は
・山腹をよじ登り
・市街地を突破し
・要塞を側面から浸透し
という“地形無視の歩兵戦術”で戦った。
ロンメルの“戦車突撃”とは異なり、
こっちは“人間の脚力と投擲火力でねじ伏せる”スタイル。
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●1-3 敵の弱点:英軍の兵力不足と政治的優先度の低さ
香港の英軍は
・イギリス本土防衛を優先され
・兵力は満足に送られず
・兵士は英軍・印軍・カナダ軍の混成
・火力は十分でも士気は高くない
つまり“地形は強いが人間が弱い要塞”だった。
日本軍はそこを突き、
初動の勢いで連続的に押し込んだ。
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■Part2:ドイツ軍・北アフリカ電撃戦 ― “戦車将軍ロンメル”の真価
●2-1 舞台:サハラ砂漠の無限平原
北アフリカは
・山が少ない
・平坦
・遮蔽物がない
・補給は海から
・道路はほぼない
戦車戦には理想的だが、
補給が遮られれば一夜で全滅する戦場。
ロンメルは
「補給の限界ギリギリで戦車を走らせる」
という危険極まりない戦法を取った。
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●2-2 ロンメルの“機動戦の天才性”
ロンメルは
・偵察
・奇襲
・側面包囲
・後方攪乱
・高速機甲突入
を同時に実行する“多重作戦”を好む。
使用した主要兵器は
・III号戦車(50mm砲)
・IV号戦車(短砲身75mm)
・88mm高射砲(対戦車の神兵器)
・ハーフトラック
・偵察装甲車
などの“装甲+火力+情報系統”。
その上で
“敵は自分と同じミスを犯す”
という読みの鋭さがあった。
ロンメルは
敵が陣地に固執して戦力を前線に集中させる癖を完全に把握し、
いつも背後や側面を突いて突破した。
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●2-3 英軍の弱点:歩兵力は強いが統合作戦が下手
イギリス軍は
・部隊規模は大きい
・戦車の質は高い
・歩兵の練度も良好
だが
・戦車と歩兵が別々に戦う
・無線連携不足
・空軍との調整が遅い
という“20世紀前半の古典的欠点”を抱えていた。
ロンメルはこれを読み切り、
常に分断し、孤立し、包囲して破壊した。
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■Part3:香港 vs 北アフリカ ― “同じ1941〜42年に起きた真逆の電撃戦”
南條
「ここが本章の核心だ。」
日本の香港攻略は
「歩兵と小火力で要塞を叩く都市戦」
ドイツの北アフリカ電撃戦は
「戦車と航空力で敵機動部隊を叩く砂漠戦」
方法は真逆だが、
両者には三つの共通点がある。
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●共通点1:初動の読みが完璧
日本軍:
英軍が“香港は長期戦になる”と思い込んでいた
→ 実際は短期で一気に落とした
ドイツ軍:
英軍が“ロンメルは大攻勢できない”と思い込んでいた
→ 実際は補給ギリギリで攻撃を仕掛けた
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●共通点2:機動の“方向”を読ませない
日本軍:
・密林から浸透
・山越え
・要塞側面から突入
“正面突破を避けて側背を突く”
ドイツ軍:
・広大な砂漠で回り込む
・夜間機動
・陣地を飛び越す
“戦線そのものを無視する”
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●共通点3:敵の政治優先度の低さを突いた
香港:
→ 英国は本土優先で兵力不足
北アフリカ:
→ 英国は東地中海と本国防衛を優先し、作戦が遅れ気味
どちらも
“敵が軽視していた戦線を刺した”ことが勝因
となる。
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■Part4:質疑応答(濃密版)
◆野本
「ロンメルの88mmってそんなに強いんですか?」
南條
「強いどころか、北アフリカの戦局を変えた。
もともと高射砲(対空砲)なのに、
水平射撃すると
“ほぼ全てのイギリス戦車を貫通できる”
という異常な性能だった。」
野本
「え、ずるい……」
南條
「イギリス軍は“対空砲を対戦車に使う”発想がなかったので、
初見殺しだった。」
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◆富山
「香港の日本軍って、補給大丈夫だったんですか?
またギリギリじゃない?」
南條
「ギリギリどころか
“綱一本でぶら下がってる”レベルだった。」
・弾薬:数日分
・食料:現地依存
・水:井戸
・砲弾:軽砲のみで節約
・医療:不足
しかし英軍側が
・混成部隊で士気低下
・要塞の一部が反撃に向かない
など内部崩壊していたため、
日本軍は火力不足を“勢い”で補った。
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◆亀山
「歩兵で要塞を落とすって、どうやるの?」
南條
「三つの技術が必要だ。」
1.夜襲
2.側面浸透
3.手榴弾と爆薬の投擲技術
要塞は正面から撃つと不利。
しかし側面は薄い。
日本軍は地形を歩いて読める軍隊だったから、
“どこに隙があるか”を見抜けた。
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◆小宮部長
「ロンメルってやっぱり天才なの?」
南條
「天才だ。ただし“持続性のない天才”。」
・初動戦力の投入
・後方攪乱
・奇襲性
・敵の心理を読む
ここは天才。
しかし
・補給計画が脆弱
・勝ちすぎて前に出過ぎる
・政治的判断が弱い
・部下の疲労管理が甘い
という欠点も多い。
「短距離走の天才」であって、
「マラソンの天才」ではない。
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◆橋本副部長
「戦車の操縦って砂漠だとどんな感じ?」
南條
「まず“揺れる”。
次に“砂で詰まる”。
最後に“オーバーヒートする”。」
つまり戦車にとって最悪の地形だが、
ロンメルは
・夜の低温時に移動
・整備兵を大量配置
・故障車は放棄して前進
という“機動の鬼”だった。
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◆山田
「日本軍が北アフリカにいたらどう戦ったと思います?」
南條
「間違いなく“浸透夜襲”と“近距離戦”。
ただし戦車戦では勝てない。」
日本軍は地形適応は高いが、
砂漠の長距離機動戦には構造上向かない。
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◆重子
「香港戦とアフリカ戦を一緒に学ぶ意味は?」
南條
「軍事史の基本だからだ。」
1.どんな軍隊も“得意地形”がある
2.敵の政治的優先度が勝敗に影響する
3.初動の読み違いが戦争全体を決める
香港と北アフリカは、
その“原理”を極端にわかりやすく示している。
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■Part5:講義後 ― 暇つぶしサークル(小劇場)
富山
「ロンメル、ゲームに出てきそうね。強キャラっぽい。」
野本
「香港は逆に、怖い……
要塞とか夜襲とか、なんかこう……映画じゃないのに映画みたい。」
亀山
「私は砂漠でタンクが走ってるのが想像つかないわねぇ。」
橋本副部長
「砂漠+III号戦車+88mm……最高。」
小宮部長
「戦車の話ばっかり。」
山田
「日本軍の歩兵の“機動力で押す”感じもロマンあるっす。」
重子
「戦場って、やっぱり“人間と道具”の両方が絡むのね。」
南條(いつものように背後から)
「次回は 第6章:フィリピン攻略 vs モスクワ攻防 だ。」
全員
「先生、出現の仕方がホラーですよ!!」




